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安田峰俊『中国人の本音――中華ネット掲示板を読んでみた――』講談社、2010年

 

 昨年夏実家から送ってもらったが、多忙のためずっと「積ん読」になっていた。
 つい最近読了。 

 本書は、中国の掲示板を翻訳する人気ブログ『大陸浪人のススメ ~迷宮旅社別館~』の管理人が、親日・反日・オタク・サブカルチャー・アニメ・中国人の政治観・少数民族問題など多種多様な話題に関する中国人のネット上の書き込みにより、「中国人の本音」を紹介したものである。

 理想主義的な「日中友好」、過激な「反中」のどちらに対しても距離を置き、ネットというツールを通じて、生の中国・中国人をできる限り客観的な形で紹介しようとする著者の姿勢には共感を禁じえない。日本人にとり理解しにくい用語には懇切丁寧な注がついているのも嬉しい。

 内容は非常に多岐にわたるのでとても紹介しきれないが、個人的に興味深かったのは第一章「親日・反日・インターネット」、第三章「ワンクリックの民主主義」、第五章「翻訳ブログは理解を生むか~チベット・ウイグル篇~」である。

 第一章では「反日」だけではない、中国人のネット上の多様な意見を紹介している。「反日」を唱える憤青(ネット右翼・反日厨)は声が大きいだけに目立つが、実際にはそれ以外の多様な意見を持つ者も多い。

 第三章では中国人の政治観を分析。ここではネットの書き込みの紹介だけでなく、歴史的・文化的な背景への目配りも怠っていない。

 著者は中国ネット民の書き込みの分析を通じ、中国人が色々文句を言いつつも、「メシを食う」ことや「安定」のためには共産党の支配を許容せざるを得ないと考えていることを指摘している。そして一見奇妙に見える共産党の政治体制は、「安定」を何よりも重んじる中国の歴史的・文化的背景を踏まえた「合理的」なものなのかもしれないとも述べている。

 これは自分の中国での実感とも一致する。自分も多くの中国人に「中国も民主化すべきではないか?」という疑問をぶつけてきたが、上は共産党員から下は一般庶民まで異口同音に「そんなことをすれば人民がどんな好き勝手するかわからん!内乱が起きる!」と言っている。

 そして第五章「翻訳ブログは理解を生むか~チベット・ウイグル篇~」ではチベット・ウイグルの騒乱・民族問題についての書き込みを分析。少数民族問題の背景には「より多くの人間が『無事に生きていける』ことを確保するためには、少数の異論は見殺しにせざるを得ない。弱いものを飲み込まなければ、自分たちの生活が脅かされる」(p.132)という中国人(漢族)の思考パターンが存在することを指摘している。それは第三章で紹介された「安定」を何よりも重んじる中国人(漢族)の思考パターンとも繋がっている。

 また、本章では、開明的・民主的な思想を持つ中国人(漢族)でさえ、少数民族への嫌悪を隠そうともしないこと、民族主義的思考からは自由ではありえないことも紹介している。自分もこれについては中国生活の中で時折見聞している。非常に悲しいことであるが、そうした考え方を持つ者が多いのは事実である。 

 著者が本書の本文末尾に記した「日本人と中国人のやりとりに一喜一憂しつつ、複雑な関係を持つ両国のネットユーザーを繋いでみる試みは、『日中友好』や「嫌・中国」の声を張り上げるよりもはるかに楽しい。」(p.150)には、惜しみない拍手を贈りたい。

 本書は中国という複雑怪奇な隣人を理解する上で必読の書と言える。
 まずは手にとって読んでいただきたい。

 別に中国と中国人を好きになろうと、嫌いになろうと構わないが、まずは相手を知ることから始めよう!

 

追記:記事冒頭にアマゾンの商品リンクを貼りました。
(2015.1.22)