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 大元ウルス(元)の夏の首都だった上都の遺跡 Site of Xanadu(内モンゴル自治区シリンゴル盟正藍旗南部)が世界遺産に登録。中国もしっかり保護に取り組んでほしい。

UNESCOの上都遺跡紹介ページ(英語)(2012.7.12閲覧)
http://whc.unesco.org/en/list/1389/

 元は大都(現北京市)という中国風の都城を建設したが、夏の間皇族たちは草原にある上都(シャンドゥ)でモンゴル的な生活を楽しんだ。上都の華やかさはヨーロッパにも伝えられ、「ザナドゥ Xanadu」として知られるようになった。そして「ザナドゥ」という言葉はやがてファンタジックな「理想郷」を表すようになった。
 

 今回は世界遺産登録を祝い、上都の情景をうたった漢詩を取り上げてみた。
 題名は「上京即事」、元の詩人薩都剌(さっとら/サドゥラ 1300?(一説に1272年生まれ)~1355?)の作。薩都剌は色目人出身とされ、幼少から漢文化に親しみ、科挙に合格し、官僚となる。元代最高の漢詩人と称される。
 この詩は上都での情景を歌ったもので、
五首連作。今回取り上げたのは第二首・第三首。「上京」はここでは「上都」の意味。野原に馬乳酒を撒くのは、モンゴル人が天を祭る際の風習。
 漢詩では北方の草原世界を取り上げているものも多いが、その多くは「辺塞詩」と呼ばれるジャンルで、中原の漢文化からの視点で、辺境地帯の厳しい風土や遊牧民との戦いに臨む悲壮な心情を歌い上げたもの。
 だが、この詩は漢詩という形式を取りながら、草原世界の美しさを素直に歌い上げている。内陸アジアの草原世界と中原の漢文化の交流が生み出したモンゴル帝国、大元ウルスらしい詩といえるだろう。

 

上京即事 第二首 第三首 
元 薩都剌

祭天馬酒灑平野  天を祭り馬酒を平野に灑(そそ)ぐ
沙際風來草亦香  沙際(ささい)の風来りて草も亦(ま)た香(かぐわ)し
白馬如雲向西北  白馬は雲の如く西北に向かい
紫駝銀甕賜諸王  紫駝(しだ)、銀甕(ぎんおう)、諸王に賜う

牛羊散漫落日下  牛羊散漫たり落日の下 
野草生香乳酪甜  野草は香を生じ乳酪は甜(あま)し
卷地朔風沙似雪  地を巻く朔風(さくふう)、沙(すな)は雪に似たり
家家行帳下氈簾  家家の行帳、氈簾(せんれん)を下す

 

天を祭るため馬乳酒を野原に撒く
砂漠からの風が吹きつけ、草もまたかぐわしい
白馬の群れがまるで雲のように西北へと向かっていく
栗毛のラクダは美酒を満たした銀の壺を背に載せ、諸王へと与えられる

牛や羊たちが野原に散らばっている黄昏時
野原の草はかぐわしい匂いを発し、チーズの甘い匂いも漂ってくる
北風が吹き、舞い上がった砂はまるで雪のよう
どの家も砂を防ぐため、ゲルにフェルトの幕を垂らした