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大木金太郎著・太刀川正樹訳『自伝大木金太郎――伝説のパッチギ王』講談社、2006年12月→講談社+α文庫、2011年2月

 

 以下は『読書メーター』と『はてなハイク』に載せた感想を加筆修正したもの。

 

 本書からは、著者大木金太郎(金一)の、師である力道山への敬慕の念、弟弟子猪木への特別な思い、日韓和解そして南北統一への情熱が感じられた。
 著者は本書出版を控えた2006年10月に世を去り、猪木も冒頭に追悼の辞を寄せている。
 
 本書前半はほぼ弟子から見た力道山伝といった趣で、後年になり韓国で横行した力道山への誤解や偏見に強く憤る個所もある。
 映画『力道山』の内容についても不満を述べている。本書によると、映画関係者からは一度も助言を求められたことはないらしい(確かに映画は史実とはかなり異なる内容だった)。   
 
 頭突き(パッチギ)を必殺技とした著者は、晩年頭突きによる後遺症に苦しめられたが、1960年代にはすでに頭突きに「ドクターストップ」がかかっていたという記述には驚いた。

 また、ロサンゼルスでの試合で、現地の韓国人と日本人が一緒になって彼を応援したエピソードには感動した。

 日韓国交正常化交渉での力道山ら日韓政界・プロレス人脈の中での動き、プロレス人生後半に果たした、韓国人を勇気づけるための「韓国版力道山」としての役割も興味深い。  
 それから、著者は若い頃は日本の女性ファンにもかなり人気があり、冗談めかして「元祖韓流スター」だったと書いているくだりはちょっと微笑ましかった。そして、ある日本人女性ファンとの交流についても触れている。

 ただし、プロレス、政界、裏社会にまたがる日韓裏面史、朴正熙政権との関係についての記述はやや曖昧な感じ。

 また、アマゾンの単行本の方のレビューでも指摘されているが、日本プロレスの崩壊過程とそれ以降における日本での著者の動向についてほとんど触れられていないのはなんとも残念。
 これは本自伝が元々韓国のスポーツ新聞に連載された韓国人読者向けのものであった以上仕方のないところだろうし、また諸般の事情で書きづらい点もあったのかもしれない。
 その辺の事情については、柳澤健『完本 1976年のアントニオ猪木』(文春文庫、2009)と併読すればより理解が深まるだろう。

 
 おそらく「墓場まで持っていった」秘密もたくさんあるのだろう。
 もう一度日韓プロレス史をじっくり語って欲しかった。

 

 とはいえ、全体的に見ればやはり史料的価値の高い本だと思う。日韓プロレス史、ひいては戦後日韓関係史を知る上でも良書だと思う。
 (そして、猪木がなぜあそこまで北朝鮮にこだわるのかについても、本書を読めばある程度の想像がつくだろう……)

 日韓関係が国交正常化後最悪といわれる今だからこそ読み返したい一冊。