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笹本正治『武田勝頼――日本にかくれなき弓取』ミネルヴァ日本評伝選、ミネルヴァ書房、2011年12月

 

 昨年読んで面白かった本。

 ここ最近は、清朝史以外の分野の本を意識して読むようにしている。
 昨年「読書メーター」にも感想を書いたが、文字数制限のため書ききれない点もあり、改めてこちらに感想を書く。

 本書は、主に武田勝頼の発給文書および各種史料を通じて、国を滅ぼした「猪突猛進型武将」という勝頼への評価の再考を行っている。

 ちなみに、長篠の戦いの敗因については、単純に兵力差によるものとしている。鉄砲装備や騎馬隊といった要素には軽く触れる程度。

 本書ではむしろ長篠敗戦後の領国統治の立て直し、軍役改革、外交戦略に力点が置かれている。

 特に、これまでのような領国拡大を望めなくなった勝頼が、それに代わるものとして、重商主義政策による商業振興を図ったという指摘は興味深かった。

 勝頼は、軍役改革、外交戦略においても一定の成果を収めていたという。

 新府城築城についても、立地条件、縄張り、そしてそこから見いだせる勝頼の戦略について詳細に考察しており、一般的イメージのような新府城築城は勝頼の愚策であったというような単純な結論は下していない。

 御館の乱での勝頼の行動に対する著者の評価も興味深い。
 一般には、御館の乱で、勝頼が北条氏が支援する上杉景虎(北条氏政の実弟)からライバルの景勝に乗り換えたことにより、甲相同盟が破綻したことが武田氏滅亡の一因となったとされている。

 だが著者はそれは結果論であるとし、景勝支援に至った要因を勝頼側の視点から考察する。

 著者の主張を要約するとおおむね以下のとおり。
 上杉景虎が勝利した場合、北条氏と上杉氏が一体化してしまい、武田氏の領国である甲斐、信濃、駿河が包囲される形となり、次は武田氏が狙われる可能性が高い。しかも北条氏と同盟を維持しても、北条氏が攻めてこない保証はない。
 一方、上杉景勝が勝利した場合、これまでの武田氏、北条氏、上杉氏のパワーバランスを崩すことなく、上杉氏への発言権も確保できる。
 従って、当時の関東における武田、北条、上杉の力関係を前提にして考えるなら、勝頼の選択は決して愚策ではなかったとしている。

 また、意外に知られていない勝頼の文化人としての側面も紹介されており、面白く読めた。

 本書は、著者自身も認める通り、やや勝頼びいきな点もあるが、武田勝頼という人物について地道な考察による再評価を行っている。
 武田氏は長篠から一直線に滅亡へと向かったのではなく、勝頼の各方面での涙ぐましい努力と気配りにより一定の成果を収めたが、それでもなお滅亡に至ったというのが正しいらしい。