基礎知識の参考書として有用――王穏『中国法律・契約用語の基礎知識』

王穏『中国法律・契約用語の基礎知識』レクシスネクシス・ジャパン株式会社、2013年8月

本書は3部構成で、第1部「中国法制度の基礎知識」、第2部「中国法律・契約用語解説」、第3部「資料編」により構成されている。
要点がわかりやすくまとまっており、書名の通り、基礎知識を身につける上で非常に役に立つ。

第1部「中国法制度の基礎知識」では、ビジネス関連法を中心に中国の法制度の基礎知識を解説。各項目ごとに要点がうまくまとめてあり、参考になる。この部分だけで80ページほどもあるが、いずれも中国ビジネスに必要不可欠な基礎知識なので熟読すべきだろう。

第2部「中国法律・契約用語解説」では、中国の法律法規・契約書の頻出用語とその解説をピンイン順に掲載。重要用語については別にコラムを設け、さらに詳細に解説している。収録用語が多く、中国の法律法規・契約書の読解を大いに助けてくれる。
あえて問題点を指摘するとすれば、契約書に頻出する「应 ying」について、独立した項目を設けて解説しておらず、「应当   yingdang」の項目に類義語として記載し、意味を「~べきである」としている点。「应 ying」という単語の辞書的な意味としては確かにその通りだが、中国語契約書における「应 ying」は、日本語契約書の「~ものとする」にほぼ対応する表現であり、後述の第3部「資料編」での契約書の日中対訳例でもそのように訳されている。「应 ying」については、独立した項目を設け、かつ契約書上では「~ものとする」にほぼ対応する表現であることを明記すべきだろう。

第3部「資料編」では、仲裁裁決書、労働紛争裁決書等の中国公文書の様式、及び中国語契約書の文例による契約書書式の解説が掲載され、基礎知識がひと通り押さえられている。
ただし、中国語契約書の文例が、取引基本契約書、貨物取引基本契約書、金銭貸借契約書、賃貸借契約書、労働契約書、合弁契約書のみとやや少なく、各契約書の各種契約条項に関する解説も日中対訳のみで不親切。文例と解説の不十分さは、あるいは紙幅の関係によるものかもしれないが、正直なところ実務上心細い。
この点については、曾我貴志監修『中国契約マニュアル(第3版)――主要契約条項の日中対訳文例集』(中央経済社、2011年12月)等、他の中国語契約書文例集と併用することで補完すべきだろう。

まとめると、本書はその書名『中国法律・契約用語の基礎知識』の通り、中国の法制度・契約書の基礎知識をひと通り押さえるには非常に有用である。ただし、中国の法制度・契約書の実務に当たる場合、本書だけでは不十分。
したがって、まず本書を読んで基礎知識を身につけ、それから他の中国語契約文例集と併用するという使い方が望ましい。