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桶谷繁雄『ソ連自動車旅行』文藝春秋社、1961年

 

 先月、速水螺旋人先生 @RASENJIN のツイートで本書の存在を知り、さっそく図書館で借りて読んでみた。
 本書は1960年に西欧、ソ連、東欧を自動車旅行した著者と東京工業大学自動車部の旅行記で、現地の自動車事情、道路事情、生活事情に関する貴重な観察記録となっている。

 著者の桶谷繁雄氏は優れた金属工学者であるのと同時に、小説家、評論家、フランス文学の紹介者としても活躍した人らしい。
 そのためか、本書の文章は非常に読みやすい。

 1960年夏、著者と東工大自動車部の学生は、3台のスバル450、1台のプリンス・スカイウェーに分乗し、フランス、ベルギー、オランダ、ドイツ、デンマーク、スウェーデン、フィンランド、ソ連、ルーマニア、ハンガリー、オーストリア、スイスの順に計12ヶ国を自動車で走破し、再びフランスへと戻った。

 本書の最初の方にはスバル450とプリンス・スカイウェーの詳細なスペックが掲載されており、当時の日本の自動車技術の水準を知る上で興味深い。
 また、ヨーロッパ渡航後、著者は西欧の自動車、道路の発達ぶりに感嘆する一方で、日本の立ち遅れを慨嘆している。海外では日本車は珍しいと書いていたり、ソ連のルーマニア国境付近の悪路の写真に「日本を思わせる」道路事情の悪さという説明を加えるなど、現在から見れば信じられない内容も多く、まさに「隔世の感」があった。
 本書でも触れているが、当時の日本は国道ですら未舗装道路が多かった。

 著者は訪問先各地の自動車事情、道路事情、生活事情を事細かに観察し、学生たちとともに現地人と交流し、夜間はユースホステルやオートキャンプ場に泊まり、思わぬトラブルや面白エピソード、暖かい人情に触れながら旅を続けていく。本書は自動車から見た1960年のヨーロッパ、そしてソ連の貴重な観察記録となっている。

 特にソ連については現地人の素朴な親切さを記しつつ、ソ連農村の貧しさ、道路事情の悪さ、流通事情の悪さとそれによる物不足・物資の偏在、硬直した官僚主義を率直に記録し、批判している。

 当時の日本は「進歩的文化人」の観念的なソ連礼賛が幅を利かせていたが、著者はそうしたソ連礼賛に疑問を投げかけている。

 

 ソ連を出た後に訪れたルーマニア、ハンガリー、オーストリア、スイスについての描写も読ませるものがあった。
 ルーマニアでは美人ガイドさんとホテルの快適さを楽しみ、ハンガリーではハンガリー動乱の記憶も新しいブダペストを訪れ、オーストリアでは自由な社会に戻った安堵感にひたり、スイスではCERNも見学している。

 

 題材と内容の興味深さ、そして著者の文才のおかげて、非常に面白く読めた。