2025年の読書メーター

2025年の読書メーター
読んだ本の数:58
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ナイス数:1284

マクベス (新潮文庫)マクベス (新潮文庫)感想
魔女の予言にそそのかされたマクベス、マクベスをそそのかした夫人。だが二人は不安を解消するために血を流し続けながら、ますます不安にさいなまれ、身を滅ぼしていく。その悲劇性と人間の持つ弱さが巧みに表現されていた。また、シェイクスピアの豊かな比喩と人間観察力を感じた。やはり「古典」として長く受け継がれてきただけのことはあると思った。巻末の解題も良い。話は飛ぶが、私は黒澤明『蜘蛛巣城』を見たことがあるが、今『マクベス』を読んでみて『蜘蛛巣城』は『マクベス』の映画化としても非常によくできていたのだと思った。
読了日:01月02日 著者:シェイクスピア
在野と独学の近代-ダーウィン、マルクスから南方熊楠、牧野富太郎まで (中公新書 2821)在野と独学の近代-ダーウィン、マルクスから南方熊楠、牧野富太郎まで (中公新書 2821)感想
近代英国では大学に属さないアマチュアの在野研究者たちが学問を担い、学会・学術雑誌や『OED』で在野研究者たちの横のつながりにより学知が結集された。それは現在のネットにおける「集合知」に似ている。一方、近代日本では「官」の権威を中心とした大学での学問の組織化が行われた。南方熊楠は英国流の道を行くが、牧野富太郎、柳田国男は「官と民の間」で自分を中心とする学問の組織化を行っていく。それらの違いは誠に興味深い。また超心理学者福来友吉、「最後の町学者」三田村鳶魚も印象的。近代の学問のあり方について紹介する好著。
読了日:01月05日 著者:志村 真幸
ピークアウトする中国 「殺到する経済」と「合理的バブル」の限界 (文春新書 1481)ピークアウトする中国 「殺到する経済」と「合理的バブル」の限界 (文春新書 1481)感想
中国経済についてはEVなどハイテク分野の大躍進という「光」と不動産不況、社会を覆う悲観論という「影」の一見相反する現象が見られる。本書では中国経済についてミクロ・マクロ視点、短期・中期・長期的視点、業界と市井の声から冷静に分析し、光と影のように相反する現象は、いずれも「供給能力の過剰と消費需要の不足」という中国経済の宿痾に由来しているとする。またその要因として中国政府の供給サイドの効率化に偏重した政策、均衡財政主義的な中央財政と地方分権的な地方財政などの長期的・構造的課題を取り上げているところも読み所か。
読了日:01月18日 著者:梶谷 懐,高口 康太
中国目録学 (ちくま学芸文庫シ-47-1)中国目録学 (ちくま学芸文庫シ-47-1)感想
本編では古代中国の木、竹、布に記録された書物から説き起こし、紙の発明と印刷術の発達とともに書物の形態が巻子本さらには冊子本へと移り変わる歴史を語る。そしてさらに進んで蔵書家の姿、また目録学、校勘学などといった書物を扱う学問がどのような発展を遂げたかを紹介していく。本編以外に収録された関連の文章も面白い。中国での書物の歴史、書物と技術発展の関係について関心を持つ人におすすめの本。私は中国の歴代の蔵書家の足下にも及ばない単なる積読家であり、書物についての学識も浅いので、本書は非常に勉強になった。
読了日:01月18日 著者:清水 茂
孝経 儒教の歴史二千年の旅 (岩波新書 新赤版 2050)孝経 儒教の歴史二千年の旅 (岩波新書 新赤版 2050)感想
本書の内容をまとめると『孝経』を軸にした儒教二千年の歴史といったところか。基本を抑えつつ、興味深い指摘も多い。なかでも、今文・古文の対立といわれるものは実は清末民国の政治・学術状況が漢代に投影されたものであるという指摘が面白い。そのほかにも、古今の『孝経』についての議論、唐の玄宗御注、元々為政者の姿勢を示す物であった『孝経』が宋から明清時代に民衆教化のために使われた歴史、明清代での『孝経』の位置づけ、日本での『孝経』の受容と刊本など話題が豊富。巻末には鄭注を元とした『孝経』の翻訳が掲載されており有用。
読了日:02月09日 著者:橋本 秀美
民族がわかれば中国がわかる-帝国化する大国の実像 (中公新書ラクレ 832)民族がわかれば中国がわかる-帝国化する大国の実像 (中公新書ラクレ 832)感想
中国の少数民族そして最大の民族である漢族、そして民族政策についての良き概説書。個人的には満族の章が非常に良くできていると思う。また中国とモンゴルによる「チンギスハン」の争奪戦からは中国における「モンゴル」の位置づけの複雑さが見てとれる。近代における「中華民族」という枠組の成立についてもわかりやすく説明されている。また、中国における「民族」とはある種の政治的・行政的区分であって、当事者のアイデンティティや一般的な「民族 ethnic group」概念とは必ずしも一致しないことにも触れている。
読了日:02月11日 著者:安田 峰俊
批評の教室 ――チョウのように読み、ハチのように書く (ちくま新書)批評の教室 ――チョウのように読み、ハチのように書く (ちくま新書)感想
本書は「精読する」、「分析する」、「書く」の3ステップと「実践編」の全4章からなっている。抽象的な理論だけでなく、具体的な批評ノウハウについても書かれており、非常に参考になった。特に3ステップ目の「書く」では『ごんぎつね』を題材にして実際に批評を書いており、なかなか面白く読めた。また「あとがき」は、本書を著者自身が分析し批評するという形を取っており、これまた面白く読めた。本書を読んで、今後いろいろな作品に接する上での一つの「見方」・「手法」が得られた気がした。
読了日:02月16日 著者:北村 紗衣
熱狂する明代 中国「四大奇書」の誕生 (角川選書 675)熱狂する明代 中国「四大奇書」の誕生 (角川選書 675)感想
「四大奇書」に代表される白話小説から明代という時代を読み解いた好著。元代の白話文の書記言語への採用と「楽しみのための読書」の発生、雅と俗、文と武の融合とそれによる白話小説の出版と普及、庶民的で激越な明の皇帝と士大夫、「江湖」に染まった武宗、善悪を併せ持つ怪物的人物、「情」を肯定する陽明学。あらゆる人間たちが熱狂的に「情」と「真」を追求した自由で猥雑な時代が読者の前で繰り広げられる。そして明代という時代と思想は清代に入り一旦否定されるが、明代が残した文化は受け継がれやがて近代に開花したとされる。面白かった。
読了日:02月23日 著者:小松 謙
半分姉弟 1 (トーチコミックス)半分姉弟 1 (トーチコミックス)感想
世間で「ハーフ」などと呼ばれる(自分はこの言い方が嫌いだが)ミックスルーツの人々について考えさせられることの多い作品。世間との葛藤、家族との葛藤を抱える彼ら主人公たちを人間として等身大に描く良作。
読了日:03月31日 著者:藤見 よいこ
本なら売るほど 1 (ハルタコミックス)本なら売るほど 1 (ハルタコミックス)感想
脱サラして古本屋の店主になった主人公とその周りのいろいろな人たち。本好きにはたまらない作品。特に森茉莉と女子高生のエピソード、本棚作りのエピソード、着物にまつわるお話(おばあちゃんかっこいい!)、そして主人公が古本屋を持つきっかけとなった前日談がよかった。あと、古本に挟まっているもの、本への書き込みの話もよかった。自分も古本を買うとき、たまに何か挟まっていることがあって、そこに時代を感じたりすることがあるから。
読了日:03月31日 著者:児島 青
遊牧王朝興亡史 モンゴル高原の5000年 (講談社選書メチエ 818)遊牧王朝興亡史 モンゴル高原の5000年 (講談社選書メチエ 818)感想
ユーラシア大陸における遊牧の始まりから匈奴、鮮卑、柔然、突厥、ウイグル、契丹、さらにはこれまであまり知られていなかった阻卜、そしてモンゴル帝国に至る遊牧民の興亡史が最新の考古学的成果により語られる。本書からは、モンゴル高原の遊牧民が多様な集団が入り混じる多様さと国際的で高度な文化・文明を有する王朝を築き上げていったことがわかる。特に農耕・建築技術・製鉄技術についての成果が興味深い。これまでの遊牧民・遊牧王朝イメージを大幅に塗り替えてくれる本だと思う。考古学からここまでわかるのかと感心させられた。
読了日:04月01日 著者:白石 典之
天上恋歌 ~金の皇女と火の薬師~ 11 (11) (ボニータコミックス)天上恋歌 ~金の皇女と火の薬師~ 11 (11) (ボニータコミックス)感想
この作品では徽宗がタヌキというか「イタチ」というかえげつないんだよなあ。盟約を破りまくってちゃいかんでしょ。そりゃ金もキレるわなあ。アイラと康王がかわいそう。そしてアイラと凜之がいよいよ両思いに。あと、金の重装騎兵が恐ろしい。
読了日:04月01日 著者:青木朋
古代中国の裏社会: 伝説の任俠と路地裏の物語 (1078) (平凡社新書 1078)古代中国の裏社会: 伝説の任俠と路地裏の物語 (1078) (平凡社新書 1078)感想
前漢期の伝説的任侠である郭解の一生を軸に、古代中国の裏社会を紹介していく。任侠の徒による暗殺、盗掘、偽金作り、地方行政や中央政界とのつながりなどからは、任侠の行動原理である「義」と非合法的収入源(ヤクザでいうところの「シノギ」)、そして任侠が持つ隠然たる力がうかがえる。また、本書は、郭解ら前漢の任侠、犯罪者、役人、官僚、そして武帝ら有名人たちの群像劇としても読める。前著『古代中国の24時間』同様、著者の史料・文献・考古学的成果の博捜ぶりと読み込みぶりにはただただ驚嘆した。
読了日:04月12日 著者:柿沼 陽平
文化系のための野球入門 「野球部はクソ」を解剖する (光文社新書 1352)文化系のための野球入門 「野球部はクソ」を解剖する (光文社新書 1352)感想
野球部・体育会系への否定的イメージから説き起こし、野球部ひいては野球界の抱える問題を解剖する。明治大正にすでにあった勝利至上主義批判、本来包摂的特性を持っていた野球が次第に「男らしさ」に回収されていく過程、高校野球の問題、「男性性」の象徴の「軍人」から「野球選手」への移行、そして「見るスポーツ」としての消費、スポーツ新聞と「Number文学」に見られる野球への技術論的・批評的視点の欠如など興味深い指摘が多い。体育会系、文化系、ジェンダーの枠に囚われない野球、体育、スポーツの在り方を訴える著者には賛同。
読了日:04月21日 著者:中野 慧
本なら売るほど 2 (ハルタコミックス)本なら売るほど 2 (ハルタコミックス)感想
古本屋「十月堂」の主人と個性豊かなお客さんたちが素敵。味わいのある漫画だなあと思う。「今どきは希少本もネットで探せば簡単に見つかりますが……自分の足で歩き自分の目で本を見つける、この体験を手放す気にはなれなくてね」という中野さんの姿勢に古本屋好きとして深く共感。個人的には諸橋大漢和のエピソードも良かった。諸橋大漢和が安く売られているのはよくある話(自分も昨年夏に古本市で数千円で購入)で自分も複雑な気持ちになる。他のエピソードも良かった。
読了日:04月21日 著者:児島 青
二十四史―『史記』に始まる中国の正史 (中公新書 2852)二十四史―『史記』に始まる中国の正史 (中公新書 2852)感想
『史記』から『明史』に至る中国歴代王朝の「正史」である二十四史についてのコンパクトかつバランスの取れた概説。また民国期以降の『新元史』、『清史稿』も紹介し、さらには台湾の『清史』、近年の中国政府による『清史』編纂の動向にも触れる。『資治通鑑』など正史の関連文献にも目配りを怠っていない。本書では、二十四史および各種関連文献の特色、編纂過程、時代背景についてもわかりやすく解説され、参考文献も充実しているので、これから中国史・東洋史を学ぶ学生、または一般向けのガイドブックとして役立つと思う。
読了日:04月22日 著者:岡本 隆司
天幕のジャードゥーガル 5 (5) (ボニータコミックス)天幕のジャードゥーガル 5 (5) (ボニータコミックス)感想
「魔女」となっていくファーティマ、そしてボラクチン、その生け贄となったオイラト。陰惨な描写が続く。その一方でカラコルムの建設、漢地(旧金領)の統治、ジャムチの整備、帝国の拡大、東西への大遠征軍の出発と歴史が大きく動き出す中、オゴタイの次代をも見据えた暗闘が始まっていく。天幕の下での陰謀と歴史の大きな動きが同時に進んでいくストーリーが見事。
読了日:04月22日 著者:トマトスープ
立ち読みの歴史 (ハヤカワ新書)立ち読みの歴史 (ハヤカワ新書)感想
日本における「立ち読み」の前史、発生、発展を跡づけたユニークな読書史。著者は立ち読みを「自主的に個別のメディアを選び、個人で享受するという極めて近代的な行い」として位置づけている。また第十章「「立ち読み」に似て非なるもの」では上流・アッパーミドルによる「購入を前提とした」立ち読みと庶民層の「購入を前提としない」立ち読みを区別している。参考文献ガイド「もっと読書史を読みたい読者に」も懇切丁寧で充実している。実は、かくいう私も小さい頃から立ち読みを趣味としてきた人間なので、本書は非常に面白く読めた。
読了日:04月29日 著者:小林 昌樹
中国皇帝の条件:後継者はいかに選ばれたか (新潮選書)中国皇帝の条件:後継者はいかに選ばれたか (新潮選書)感想
中国の皇帝の後継者選び、その時代の政治史などを解説している。ユニークなのは歴史上似た立場、似たタイプの皇帝同士をセットで対比する構成で、秦の始皇帝と漢の武帝、前漢の恵帝と清の順治帝、唐の太宗と宋の太宗などといった並びになっている。内容については、あとがきにもあるとおり、歴代正史・『清史稿』に沿っている。近年の研究はあまり参照していないらしい。個人的感想としては、清の皇帝たちについての記述、清の政治史に関する認識はかなり古く見えたし、満洲人の名前の表記についても気になる箇所が多かった。
読了日:05月11日 著者:阪倉 篤秀
中華とは何か ――遊牧民からみた古代中国史 (ちくま新書 1856)中華とは何か ――遊牧民からみた古代中国史 (ちくま新書 1856)感想
著者はまず「中華思想」には排他的側面だけでなく、徳を持つ者が「中華」であり、周辺の「夷狄」も「中華」になれるという融合的側面もあることを指摘する。その上で時に「中華」を支配した遊牧民の視点から「中華」について語る。本書からは「中国」・「中華」・「中華思想」・「漢人」・「漢族」は、遊牧民など周りの集団・文化を取り込んで絶えず変化してきたこと、そして遊牧民たちも決して単純かつ一方的に「漢化」したのではないことがわかる。これまでの研究成果を堅実に踏まえた概説であり、要所要所をしっかり押さえていると思う。
読了日:05月17日 著者:松下 憲一
世界史のリテラシー 朝鮮は、いかに「外患」を克服したのか: ホンタイジによる丙子の乱 (教養・文化シリーズ)世界史のリテラシー 朝鮮は、いかに「外患」を克服したのか: ホンタイジによる丙子の乱 (教養・文化シリーズ)感想
丙子の乱の経過、朝鮮王朝の建国、秀吉の侵攻、後金・大清の勃興といった歴史的背景、さらには乱後の動向と丙子の乱についての歴史的記憶が取り扱われている。本書では、秀吉と大清の侵略という相次ぐ外患に内政・外交両面で対処しつつ、兵制改革、火器の導入など意欲的な軍備再建・軍事改革を行う朝鮮王朝が描かれる。そこには「朝鮮は政争にあけくれていたので侵略を受けるのも当然であった」、「朝鮮が朱子学の教義にしたがい、冷静な現実判断ができなかった」という従来のステレオタイプとは異なる朝鮮王朝の姿が描かれている。
読了日:05月17日 著者:鈴木 開
歴史のなかの貨幣 銅銭がつないだ東アジア (岩波新書 新赤版 2057)歴史のなかの貨幣 銅銭がつないだ東アジア (岩波新書 新赤版 2057)感想
現代社会では同じ額面の貨幣は同じ価値を持つが、前近代ではそうとは限らない。近世東アジア各地における銭の選別と階層化すなわち「撰銭」という現象の解説が面白かった。また、中国で大量鋳造された銅銭が当初は金属素材として日本に流入し、結果的に基層での貨幣取引を促進したこと、ビタ銭の流通、日本での古銭の模造、倭寇と銅銭流入、古銭の退場などなど興味深い話題が多い。なにより基層での少額通貨の充分な流通が商取引を促進し、民の生活と物価にとって重要であったことも理解できた。この辺はまさに「金は天下の回りもの」だと感じた。
読了日:05月25日 著者:黒田 明伸
ライジングサンR(18) (アクションコミックス)ライジングサンR(18) (アクションコミックス)感想
これにて完結。まだまだ続くと思ってたけど、これぐらいで終わるのがちょうどいいのかも。これまで読んでいて、元陸自の読者としてけっこう楽しませていただき、また考えさせられる描写もありました。お疲れさまでした。
読了日:05月31日 著者:藤原さとし
輶軒語: 清朝科挙受験指南 (924) (東洋文庫)輶軒語: 清朝科挙受験指南 (924) (東洋文庫)感想
張之洞が科挙受験生に向けた指南書。読書と学習の心得、経(儒教の経典)・史(歴史・地理)・子(思想・科学など)・集(文集・詩文など)など各分野での具体的な中国古典の学習法、具体的な科挙受験対策などが盛り沢山に紹介され、今でも参考になる指摘が多い。また付録の奏摺(上奏文の一種)には当時の四川省での替え玉受験など科挙での不正、それに対する張之洞の解決策などが書かれている。中国古典学習入門、具体的な科挙受験対策、清末の科挙制度の実態としてなどなど、いろいろな角度から読めて非常に面白かった。
読了日:06月20日 著者:張 之洞
人生で残酷なことはドラゴンズに教えられた (小学館新書 489)人生で残酷なことはドラゴンズに教えられた (小学館新書 489)感想
私は物心ついて以来の阪神ファンで、強かった時代も弱かった時代も経験し、世の中の理不尽さ、人生のさまざまなことを阪神から学んできた。本書を読んでみると著者も同じような思いであることがわかり、球団を超えた強い共感を覚えた。まるで球場でビールを飲みながら(またはテレビ中継を見ながら)自チームにぼやいている古参ファンが目の前にいるようで、非常に楽しく読めた。巻末の宇野勝との対談も楽しい。
読了日:06月22日 著者:富坂 聰
五胡十六国時代: 王朝の乱立と権力闘争 (ハヤカワ新書)五胡十六国時代: 王朝の乱立と権力闘争 (ハヤカワ新書)感想
本書サブタイトルの通り数々の王朝が乱立し、その王朝内でも複雑な権力闘争が行われた五胡十六国時代。この滅茶苦茶ややこしい時代について、司馬越、石勒、苻堅、慕容垂、赫連勃勃ら章ごとに定点的な主人公的人物を設定して、その視点から解説するという形を取っている。おかげで各王朝・集団の動向が追いやすくなっている。また、この時代の各王朝の構造、各王朝での胡漢の混合、この時代独特の「天王」号など興味深いテーマが多かった。
読了日:06月24日 著者:小野 響
星野と落合のドラフト戦略 元中日スカウト部長の回顧録星野と落合のドラフト戦略 元中日スカウト部長の回顧録感想
中日で38年にわたってスカウトを務めた中田宗男氏の回想。特に星野と落合というドラゴンズ黄金期を作り出した監督それぞれのドラフト戦略について明らかにしている。星野は「将来性」、落合は「即戦力」重視ということらしい。有力な選手でも巡り合わせやチーム編成などの兼ね合いでドラフト指名できなかったりすることが多いことがわかった。また興味深い問題として、「ナゴヤドームの呪縛」すなわちナゴヤドームの広さのため、打撃に特化した選手が取りにくくなり、それが中日の打力低下につながってしまったという著者の反省も述べられていた。
読了日:06月24日 著者:中田宗男
ラテン語の世界史 (ちくま新書 1860)ラテン語の世界史 (ちくま新書 1860)感想
ラテン語とラテン語世界の歴史。興味深かったのは、中世西欧では、ローマ帝国時代には及ばないにせよ、キリスト教修道院により古典写本の作成、ラテン語教育が行われ、やがてそこから大学が発生するなど、ラテン語と古典教養が断絶しなかったこと。また、行政用語としての使用、ラテン語の子孫といえるフランス語、イタリア語、スペイン語などロマンス諸語の形成過程、そしてラテン語が「俗語」とされてきた各国の言語、近世以降における「国語」へと次第に交代していく過程についても触れていて参考になった。
読了日:06月28日 著者:村上 寛
刑事コロンボとピーター・フォーク:その誕生から終幕まで刑事コロンボとピーター・フォーク:その誕生から終幕まで感想
『刑事コロンボ』の舞台裏を関係者の証言で克明に描く。ピーター・フォークのこだわり、完璧主義がこの作品を素晴らしいものにしたが、それによって関係者は振り回されていく。彼は製作のいろいろな所に口を出し、製作のトップを務めるようになる。そして時代や局面の変化もあり、作品は迷走していく。自分も『刑事コロンボ』という作品を愛しているが、その裏では生々しい駆け引きや綱渡り的な製作現場の状況などがあったことがわかり、大いに驚いた。ドラマの裏にもドラマあり。
読了日:07月13日 著者:デイヴィッド・ケーニッヒ
ミライライフライ(2) (アフタヌーンKC)ミライライフライ(2) (アフタヌーンKC)感想
苛烈な受験戦争がもたらす歪み、北京で暮らす出稼ぎ家庭の過酷な境遇、農村の精神病患者などなど、中国社会のやるせない現状が描かれる。中国の若者たち、庶民たちは常に生きづらい。しかしそのなかでも食べ、撮り、旅をし、生きていこうとする主人公たちはギラギラし、生き生きとしていて、わずかな希望が見える。
読了日:08月03日 著者:雨田 青
イラスト図解 中華後宮事典: 中華風ファンタジー創作のためのイラスト図解 中華後宮事典: 中華風ファンタジー創作のための感想
後宮の内容は思ったより少なくて、中国王朝時代の政治、制度、文化、社会を広く取り扱っている。たとえば「皇帝」・「皇后」・「皇太子」……などなどキーワード別にまとめられていて、それぞれのテーマについて基本的な知識が得られる。また、オールカラーのイラスト、図解でイメージをつかみやすい。中国史ビギナーの方に便利だし、中国時代劇ドラマ鑑賞のお伴にも使えるかも。後宮の内容がもう少し多ければなお良かったかな。
読了日:08月03日 著者:
建築知識2025年8月号建築知識2025年8月号感想
図書館、ブックカフェ、戸建て、狭い賃貸など場所に応じた本棚の配置の仕方とか、照明の明るさとか、デッドスペース・隙間の活用とか、動線とか、本棚の自作方法などなど参考になる図解・記述が盛り沢山。自分も賃貸に住んでいるのでいろいろ参考にしたい。私のような本好きにとっては見ているだけで楽しい内容。
読了日:08月06日 著者:
自分は「底辺の人間」です 京都アニメーション放火殺人事件自分は「底辺の人間」です 京都アニメーション放火殺人事件感想
自分も犯人のように氷河期世代の一人として「底辺」で辛酸を嘗めてきたので、彼の苦しみ自体は理解できる。だが、だからといってそうするのかいう怒りと疑問は湧いてくる。彼のそれまでの言動、そして最終的に放火に至った動機はあまりに稚拙で身勝手。ただ、そう考える自分は結局「運が良かった」だけなのかもしれないけれども。彼にとって惜しまれるのは、周囲や福祉からたびたび差し伸べられた支援の手を結局は払いのけてしまったこと。周りの人間に恵まれず、それゆえに周りの人間を遠ざけ、ますます周りの人間に恵まれなくなったのかなと思う。
読了日:08月07日 著者:京都新聞取材班
プロ野球を選ばなかった怪物たちプロ野球を選ばなかった怪物たち感想
輝かしい実績を残しながらプロ野球を選択しなかった名選手たちに迫った一冊。それぞれが野球への強い愛を持ち、それでいて野球以外への視野の広さ、そして冷静な分析能力をも持ち合わせているところに感服した。それぞれが自分なりに考えて、納得した上で決断している。個人的には、東京六大学で大活躍しながらプロ入りを拒否し、大学を最後に野球を辞めた志村亮氏が印象的。当時の騒がれ方をリアルタイムで覚えているので、なぜ志村氏がこのような決断に至ったのかを知ることができてよかった。番外編の遠藤良平氏もなかなか興味深い。
読了日:08月07日 著者:元永知宏
南京事件 新版 (岩波新書 新赤版 2073)南京事件 新版 (岩波新書 新赤版 2073)感想
日本軍側の史料、将兵の日記・記録、『南京戦史』、中国側の史料と証言、外国人による証言などから事件の全体像を明らかにする。近年の歴史否認主義に対する反証も随所で行われている。現地軍が独断専行し、兵站・法務体制を整えず、指揮統制が緩み、無責任体制が横行する。上海で戦い、そのまま南京へと侵攻し、疲弊し補給に事欠く将兵たちがその憤懣を無抵抗の捕虜に向け、さらに「現地調達」という名の略奪と暴行、強姦などの蛮行が繰り広げられる。そして将兵には犯罪意識がない。戦前日本の悪い点が凝縮して現れた事件だったというのが感想。
読了日:08月18日 著者:笠原 十九司
七三一部隊の日中戦争 敵も味方も苦しめた細菌戦 (PHP新書)七三一部隊の日中戦争 敵も味方も苦しめた細菌戦 (PHP新書)感想
これまでの先行研究を受け、七三一部隊が開発した細菌兵器が日中戦争でどのように使用されたかという全体像を明らかにする。わかる点とわからない点を切り分け、慎重に検討している点に好感が持てた。本書では日中戦争での兵力不足による行き詰まりの打開のために細菌戦が行われたという背景、細菌戦が単に七三一部隊だけでなく、日本陸軍の上層部により組織的に行われた実態、作戦次元での細菌兵器の使用目的と使用の様相、細菌兵器による被害を描き出す。細菌兵器が中国の軍と民間人、さらには日本軍にも被害をもたらしていた様子には慄然とした。
読了日:08月18日 著者:広中 一成
琉球処分-「沖縄問題」の原点 (中公新書 2860)琉球処分-「沖縄問題」の原点 (中公新書 2860)感想
日清に両属していた琉球王国が日本の沖縄県として併合される過程を概説。本書の特色は『尚家文書』など琉球王国側の史料を駆使し、併合に抵抗する琉球側の視点と論理を詳細に明らかにしていることである。そこからは琉球側の日本(ヤマト)への認識の深さが読み取れた。その一方で、併合した側である日本政府側の琉球への無知および政府官僚の沖縄と沖縄人への植民地視も明らかにされている。そしてその関係性がその後現在に至るまで継続していることを思えば、まず日本人としては沖縄について知ることから始めなければならないのだろうと思った。
読了日:08月18日 著者:塩出 浩之
商人の戦国時代 (ちくま新書 1871)商人の戦国時代 (ちくま新書 1871)感想
幕府、朝廷、寺社など権門をバックに既得権益を守って商売する商人たち、それに食い込もうとする新興商人たち、古文書を偽造してまで権利を主張する商人たち、楽市楽座を進めながら既存商人の既得権益も保護してキックバックを稼ぐ臨機応変な織田信長、瀬戸内海の海賊たち、戦国大名の御用商人、石見銀山と貿易などなど面白い話題が多い。戦国という既存秩序が動揺し、新興勢力が登場する時代状況の中での商人群像がよく描かれている。
読了日:08月30日 著者:川戸 貴史
日本の西洋史学 先駆者たちの肖像 (講談社学術文庫)日本の西洋史学 先駆者たちの肖像 (講談社学術文庫)感想
お雇い外国人リースによるランケ史学の移植から第二次世界大戦終戦までの日本の西洋史学の展開を先駆者たちの群像を通じて描く。ランケ史学から社会経済史への潮流、マルクスとウェーバーの受容、戦争との関わりなど興味深い点が多い。特に上原専禄による世界史像の提唱を掘り下げていて面白かった。こうした歴史は、日本人が西洋史ひいては外国史を学び、研究する意味、ひいては日本と日本人が西洋という存在ひいては外国という存在といかに対峙してきたか、いかに理解しようとしたかを考える手がかりになるかもしれないと思った。
読了日:09月07日 著者:土肥 恒之
中華料理と日本人-帝国主義から懐かしの味への100年史 (中公新書 2861)中華料理と日本人-帝国主義から懐かしの味への100年史 (中公新書 2861)感想
中華料理が帝国日本の勢力拡大の中で受容され、やがて「懐かしの味」に変わっていく過程を描き出す。ある意味英国におけるカレー・インド料理と共通しているとのこと。個人的に興味深いのは「ジンギスカン」料理の歴史で、モンゴルとは直接関係ない北京の羊料理だったものが、日本人により「ジンギスカン」に結びつけられ、戦意高揚にも利用されたが、戦後にはそれが忘れられ、北海道で郷土料理として定着していく。これは近現代日本と「満蒙」との関わりを考える上での好材料だと感じた。また、他の料理についても興味深い話が多かった。
読了日:09月16日 著者:岩間 一弘
天上恋歌 ~金の皇女と火の薬師~ 12 (12) (ボニータコミックス)天上恋歌 ~金の皇女と火の薬師~ 12 (12) (ボニータコミックス)感想
宋の違約に激怒した金が全面侵攻。なんとか両国の間を取り持とうとする者たちの働きも及ばなかったのが悲しい。主人公のかけがえのない家族の一人も死を迎える。印象的なのは宋の大臣たちの無節操さと無責任さ、そしてそれをわかった上で利用している上皇のどす黒さ。そりゃ火薬技術者たちも愛想をつかしたくなるだろうという納得の描写。戦乱に翻弄される宋の女性たちも悲しく、これについては後書きも含めて読んでほしい。
読了日:09月16日 著者:青木朋
魔境斬刻録 隣り合わせの灰と青春 3 (ボーダーコミックス)魔境斬刻録 隣り合わせの灰と青春 3 (ボーダーコミックス)感想
悪のパーティーが壊滅。原作と『Wizardry』を上手く消化している。この辺の展開は好き。
読了日:09月22日 著者:稲田 晃司
魔境斬刻録 隣り合わせの灰と青春 4 (ボーダーコミックス)魔境斬刻録 隣り合わせの灰と青春 4 (ボーダーコミックス)感想
いよいよ最下層の大詰めの展開。分断されたパーティーはどうなる?アルハイムの意図とは?原作をテンポ良く漫画化しており、面白く読める。
読了日:09月22日 著者:稲田 晃司
おまえレベルの話はしてないおまえレベルの話はしてない感想
棋士としての夢を目指していたはずが、いつの間にか焦りと辛さと不安にさいなまれ、成績は伸び悩び、研究会にも誘われない芝。しかし将棋を辞めることはできない。一方、棋士としての夢を捨てて弁護士として成功をおさめるが将棋に囚われている大島。二人の視点が交錯し、また枝分かれしていく。将棋ではないが、自分も若い頃に夢を追いかけたが、焦りと辛さと不安にさいなまれる日々で、やがて挫折したので、二人の独白を読んでいるとまるで自分のことのように思えた。文字通り心に「刺さった」作品。
読了日:10月05日 著者:芦沢 央
後宮 殷から唐・五代十国まで (角川新書)後宮 殷から唐・五代十国まで (角川新書)感想
中国の後宮や後宮制度の歴史というより、後宮をめぐる人物たちを中心とした歴史といったところ。今回は前半ということで五代十国までで、各時代についてバランス良く取り上げている。また、時代ごとの変化にも触れており、昔から「同じことの繰り返し」に見られがちな中国史が実はそうではないことを示している。さらに、各人物の強烈なエピソードには興味を引かれるし、趙高非宦官説など近年の研究による目新しい話題も取り入れていて面白かった。そして、関連の中国、日本の古典文学作品、ドラマ・映画も取り上げられているのも良かった。
読了日:10月05日 著者:加藤 徹
宇宙大将軍侯景SFアンソロジー 梁は燃えているか宇宙大将軍侯景SFアンソロジー 梁は燃えているか感想
広大な宇宙を駆け巡る侯景、侯景とある人物との夢の対決、シミュレーションゲーム、カードゲーム、きれいな侯景、加速器実験、電波天文学×仏教ネタ、ハンバーガーなどなど実にさまざまな南朝梁と宇宙大将軍侯景を描き出す。それぞれの作品でSFやファンタジーの方法を用いてそれぞれまったく違う、それでいて「宇宙大将軍侯景」以外の何者でもない侯景を描き出していて本当に楽しかった。みんな違ってみんな侯景!
読了日:10月08日 著者:十三不塔,林譲治,木海
後宮 宋から清末まで (角川新書)後宮 宋から清末まで (角川新書)感想
下巻となる本巻では宋代以降を扱う。上巻で扱われた唐代までのような強烈な個性を持った皇后・皇妃や宦官・外戚は少なくなる印象を受けた。史料が豊富なおかげか宋代と明清の後宮についての記述が非常に豊富。清朝の後宮は制度的にかなり完備され「お役所」的な印象を受けた。西太后については著者が以前に評伝を著していることもあり、かなり詳しい。また、本巻では各時代の後宮を扱ったドラマ・漫画作品などもたくさん紹介されており、後宮関連作品ガイドとしても使える。
読了日:10月12日 著者:加藤 徹
日本の月はまるく見える(3) (モーニングKC)日本の月はまるく見える(3) (モーニングKC)感想
本巻が最終巻。ストーリーも駆け足に。もう少し読んでみたかったというのが正直な感想。締めくくり方は良かったかなと。
読了日:10月23日 著者:史 セツキ
続・日本軍兵士―帝国陸海軍の現実 (中公新書 2838)続・日本軍兵士―帝国陸海軍の現実 (中公新書 2838)感想
今回は明治からアジア太平洋戦争までの日本陸海軍兵士の衣食住、衛生などについて検討。兵士の栄養状況、衛生環境が満洲事変あたりまでは改善されるが日中戦争以降退行していく事実は興味深い。印象的なのは飯盒炊爨の兵士への負担の大きさ。また、階級が下がるほど犠牲が増える「犠牲の不平等」、品質の悪い被服・軍靴、装備・荷物を背負う負担、衛生環境の劣悪さ、艦船の居住性の悪さなど、乏しい国力で軍備を充実させるためのつけを一般兵士に払わせていることがわかる。まさに著者の指摘する「人間軽視」の発想である。受け継ぐべき重い教訓。
読了日:11月03日 著者:吉田 裕
締切と闘え! (ちくまプリマー新書 504)締切と闘え! (ちくまプリマー新書 504)感想
「締切」をテーマにした島本和彦氏の自伝的エッセイ。スケジュールの立て方、一日にできる仕事量を把握すること、編集者とのやりとり、編集者の要求を受け入れつつも妥協しすぎないこと、日常生活とのバランスの取り方などなど、締切を抱えながら仕事をする者にとって参考になる点が多い。また、島本氏ならではの業界の裏話・昔話もあり、楽しく読めた。自分も締切(納期)を抱えながら仕事をしている自営業(翻訳者)なので、本書の内容にはうなずける点が多かった。ただし、島本氏の熱すぎるエネルギーだけは真似できそうにないけどもw
読了日:12月06日 著者:島本 和彦
Sports Graphic Number「アスリートに学ぶ外国語学習法。」 2025年 12/25号(1133号) [雑誌]Sports Graphic Number「アスリートに学ぶ外国語学習法。」 2025年 12/25号(1133号) [雑誌]感想
特集「アスリートに学ぶ外国語学習法。」を読む。山本由伸(英語)、石川佳純(中国語)をはじめとする各種目の有名アスリートたちの外国語学習法が参考になる。主に挙げられているのは、たくさん聞いてたくさん話すこと、反復練習、文法の重要性、コミュニケーションへの意欲、「完璧さ」を求めないこと、目標設定の大事さなどであり、これらは一般人の語学学習と共通している印象を受けた。アスリートの語学の達人たちはなにも特別で独特な語学修行をしたわけではなく、あくまで基本に忠実な練習をひたすら積み重ねてきたということだと思った。
読了日:12月06日 著者:
古代文字を解読していたら、研究に取り憑かれた話 (一般書)古代文字を解読していたら、研究に取り憑かれた話 (一般書)感想
全体的に楽しく読めた。ヒエログリフ、フェニキア文字などなどの古代文字の研究者三人が綴る三者三様の生き方と学問へのスタンスが面白い。研究者三人が語る古代文字との出会いとその魅力もまた楽しい。読んでいて、自分が学問に出会ったときの初々しい気分が蘇ってきた。また、三人とも、古代文字・古代言語の学び方として、史料や文字を実際に紙に書くことの重要さを強調しているのはうなずけるところ。それから、効率重視の世の中で、研究をしながら生きていく大変さも書かれており、いろいろ考えさせられた。
読了日:12月07日 著者:大城 道則,青木 真兵,大山 祐亮
考察する若者たち (PHP新書)考察する若者たち (PHP新書)感想
正解のない「批評」から正解を求める「考察」への変化、「正解」によって「報われる」ことを求める風潮、「自分らしさ」からオススメされてしまうものへの「最適化」などなど面白い分析が多い。また「気づき」を重視する「ひろゆき的思考」と陰謀論との親和性についても指摘しており、興味深く読めた。ただ、タイトルに『考察する若者たち』とあるように、本書ではこれらの現象は主に若者層の現象と捉えられているが、ネット上の様子を見るに、実際にはこれらの現象は中高年層にも共通しているようにも見える。
読了日:12月07日 著者:三宅 香帆
中国思想の基礎知識 (角川選書 682)中国思想の基礎知識 (角川選書 682)感想
春秋戦国時代の諸子百家、漢代を経て儒教が体制教学化していく過程、儒・仏・道の「三教交渉」、朱子学・陽明学など中国思想の展開をうまくまとめている。伝世文献のみならず近年の出土文献による研究成果も盛り込まれていて面白く読めた。中国思想の日本への影響についても簡潔明瞭にまとめている。中国思想が諸子百家の頃から一貫して政治性と現実性を重視していたという著者の指摘は重要だと感じた。また「認知戦」・「寝そべり族」などを例に挙げ、中国思想と現代とのつながりにも触れている。分量は多いが読みやすい文章ですいすい読めた。
読了日:12月14日 著者:湯浅 邦弘
正しすぎた人 広岡達朗がスワローズで見た夢正しすぎた人 広岡達朗がスワローズで見た夢感想
1978年のヤクルト日本一と広岡達朗監督、そして現在の広岡について綴る。正しいことを正しく行えば結果が出るという信念を曲げず、基本とプロフェッショナリズムにこだわる野球人としての広岡像が如実に描かれる。それは時に頑固で冷酷に映り、最近ではそれが誇張されて「老害」などとして炎上する。しかし著者は広岡達朗という対象に粘り強く向き合うことにより、広岡という人物の多彩な面も引き出している。娘さんが語る父としての広岡像も面白い。そして過去を振り返り、時に反省する広岡はまさに「人生はいくつになっても勉強だよ」である。
読了日:12月30日 著者:長谷川 晶一
剽窃新潮剽窃新潮感想
小説家、編集者の生態が描かれていて楽しい。爆笑させられる話もあれば、電子図書、生成AIなど時事ネタもうまく盛り込んでいて唸らされる話もある。いしいひさいち先生の引き出しの多さに感服。登場人物はいしい先生の漫画に登場する人物たちが大集結している。「広岡達三」(広岡達朗がモデル)先生もいいし、藤原ひとみ先生も面白いキャラクター。「熊谷元直の妻」は圧巻。また歴史のマニアックネタも所々に盛り込まれており、第100話ではなんと「包衣」とか「ジャンギン」など清朝史・八旗制度ネタもありビックリした。
読了日:12月31日 著者:いしい ひさいち
大清国: ユーラシアにおけるマンジュの時代 (東北アジアの社会と環境)大清国: ユーラシアにおけるマンジュの時代 (東北アジアの社会と環境)感想
大清国(清朝)の意味を、漢、チベット、モンゴル、東トルキスタン(ウイグル)そしてマンジュ(満洲)の五者からの視点でとらえている。各地において前時代との連続性が保たれ、現地の制度・秩序を一定程度継承した統治が行われたことが丁寧に語られる。そして大清国が「中央ユーラシア王権」として広域支配を実現した秘訣として、自ら定着農耕民でありながらモンゴルの遊牧国家に通じる社会組織と軍制を持ち、中華王朝としての性格まで取り込むことができたマンジュの「農牧ハイブリッド性」が指摘されている。読みやすい分量で参考文献も充実。
読了日:12月31日 著者:
イスラームが動かした中国史-唐宋代から鄭和の大航海、現代回族まで (中公新書 2886)イスラームが動かした中国史-唐宋代から鄭和の大航海、現代回族まで (中公新書 2886)感想
中国ムスリムが中華文明を拒絶せず、無批判に受け入れず、独自の文化を生み出し、歴史上大きな存在感を放ってきたことがよくわかる。特に明清以降の記述が充実しており、多くの思想家たちの出現、近現代における中国ムスリムと世界との接触、宗教・民族的アイデンティティ形成、日本の回民工作、中国共産党の回民政策の少数民族政策の淵源としての意味、中華人民共和国成立以降の動向について丁寧に紹介されている。近年の中国政府による抑圧、社会の反イスラーム的言説などについても述べられている。現代の著名な回族、ウイグル族の紹介もある。
読了日:12月31日 著者:海野 典子
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