見当外れの政策――なぜ日本人学生は大学院へ行かないのか
博士課程の学生支援、生活費支給は「日本人限定」に見直しへ…受給者の4割近くが留学生・最多は中国籍 2025/06/26 05:00 読売新聞(電子版)
この記事を読んだとき、あきれて言葉を失った。
外国人への支援を減らしたところで、日本の人文科学・自然科学の研究が発展するわけではないし、何より日本人の大学院生が増えるわけでもない。
問題認識も、対処の方法も、すべて見当違いである。
それにもかかわらず、ネット上では賛成の意見も多い。
世間の人々は、本当に大学の実情を知らないのだなと痛感した。
第一に、これは外国人に対する明白な差別である。
日本に学びに来る外国人に、罪はない。
また、後述するように、日本人学生の大学院進学が減っている現状は、外国人への支援とは無関係だ。
第二に、日本の科学研究は、人文科学・自然科学を問わず、留学生からの刺激と支えによって成り立っているという現実を理解していない。
日本人と外国人が共に学び、研究する多様な環境の中で、日本人学生や研究者が刺激を受けているのは事実である。
また、後述するように日本人学生の数が減少している今、研究室や学会における様々な雑務やアシスタント的な業務は、留学生の尽力によって支えられているのが実情だ。
第三に、日本人学生が大学院(修士・博士課程)に進学しない、あるいは進学できない理由を見誤っている。
たとえ外国人への支援を削り、日本人学生への支援を手厚くしたとしても、それだけで「よし、大学院に進学しよう」と考える学生が急に増えるとは思えない。仮に進学者が多少増えたとしても、その効果は限定的だろう。
では、なぜ日本人学生が大学院進学をためらうのか。
それは、人文科学系・自然科学系を問わず、目の前の研究に専念できる環境が整っていないことに加え、どれほど努力しても就職先が限られ、仮に就職できたとしても薄給に苦しみ、日々の雑務に追われて研究に集中できないからである。
さらには、日本社会において自らの専門性が正当に評価されない現実がある。大学院修了者、修士号・博士号取得者は、「扱いにくい」と見なされ、場合によっては邪魔者のように扱われてすらいるのが現状だ。
要するに、現在の研究環境、そして社会環境では、将来の研究生活に対して「夢」を描くことができないのだ。
日本人学生の進学者数を本気で増やしたいのであれば、大学内部の環境改善にとどまらず、広く社会全体のあり方を見直す必要がある。
以上は、かつて大学院で研究者を目指し、そして挫折した一人の人間としての率直な意見である。