博物館事業から見た満洲国――大出尚子『「満洲国」博物館事業の研究』
大出尚子『「満洲国」博物館事業の研究』汲古叢書、汲古書院、2014年2月
博物館事業から見た満洲国。
民国時代から満洲国時代に至る現地の博物館事業、特に奉天故宮博物館(現瀋陽故宮博物院)の変遷が跡づけられている。
著者は、満洲国の国立博物館(現遼寧省博物館)の展示内容とその変化を分析し、展示内容からの「清朝色」の排除を明らかにし、さらにそこから一歩進んで「清朝色」の排除が満洲国における清朝遺臣の排除と軌を一にしていることを見出している。そして、奉天故宮博物館の閉鎖は、清朝最後の皇帝溥儀を執政・皇帝に推戴しながらも清朝復辟を否定した満洲国の実相を示しているとも指摘。
満洲国をめぐる日本・関東軍と溥儀・清朝遺臣たちとの同床異夢ぶり、そして溥儀・清朝遺臣の排除が博物館事業という切り口からも明らかとなっている。
また、気候風土・現地事情を考慮しない日本・満洲国当局の移民政策を批判し、日本人に現地諸民族の生活様式を学ばせるための博物館建設を目指すも夢破れた藤山一雄についても豊富な記述があった。
机上の空論をもてあそび、現地事情を考慮しない姿は当時の日本の通弊であったらしい。
満洲国及び当時の日本の博物館事業を考える上で一読に値する。
(本書評は「読書メーター」に掲載した内容に修正・加筆を行ったものです)