概説書にして研究への扉――冨谷至・森田憲司(編)『概説中国史』(上)・(下)

冨谷至・森田憲司(編)『概説中国史』(上)・(下)、昭和堂、2016年2月

 

概説レベルの基本的記述と近年の研究の進展を反映した新鮮な内容がわかりやすくまとめられている。

それでいて、大学での本格的な中国史研究への手引きとなる情報も豊富に盛り込まれている。

 

上巻は先史時代から唐代までを扱っている。

特に先秦・秦漢時代は近年の出土文字資料の新発見により、これまでの歴史像が大きく変わりつつあるのがわかる。

 

下巻は五代十国から現代まで。

「多国体制」、「多極化時代」としての五代、契丹、宋、金の位置づけが目を引く。契丹と元に関する内容も充実。

さらに明、清、近現代についても1990年代以降の新しい論調が反映されていて読み応えがある。

 

そして、オススメなのが、巻末の森田憲司氏の「中国史研究の手引き」。

単なる参考文献名の列挙ではなく、それら文献の使い方、実際の使い勝手、さらには森田氏自身の豊富な研究経験から得た心得についても書かれてあり、非常に参考になる。

 

概説書にして研究への扉ともなる本で、近年の日本での中国史研究の大きな変化がよくわかる本でもある。

大学でこれから本格的に中国史を研究したい人、概説書・高校世界史教科書レベルの知識からさらにステップアップしたい人に適した本といえる。

 

 

本書評は「読書メーター」に掲載した内容に修正・加筆を行ったものです。

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