2024年の読書メーター

2024年の読書メーター
読んだ本の数:87
読んだページ数:21009
ナイス数:1407

英語達人列伝: あっぱれ、日本人の英語 (中公新書 1533)英語達人列伝: あっぱれ、日本人の英語 (中公新書 1533)感想
明治期から昭和までの英語の達人10人の列伝。語学習得における読書量と練習量の重要性が理解できる。また、文法教育の重要性を訴え、最近の「コミュニケーション中心」の英語教育にも異論を唱えている。また、単語を文章・文脈の中で理解することの有効性にも触れており、この点は自分の中国語学習の経験からも頷けた。時代背景などから現在では参考にならない点もあるが、外国語学習についてのいろいろなヒントが述べられていて面白かった。
読了日:01月06日 著者:斎藤 兆史
英語達人列伝II-かくも気高き、日本人の英語 (中公新書 2738)英語達人列伝II-かくも気高き、日本人の英語 (中公新書 2738)感想
あとがきの「達人たちはなにか特殊な修業を行ったわけではない。当たり前の学習法を、とてつもない時間をかけ、とてつもない情熱と根気を持って実践しただけである。」という一文に共感。達人たちは、あくまでたくさん読み、音読し、書き、訳すという語学の基本に忠実であったことがわかりやすく語られている。達人たちの学習法は、自分も中国語という外国語を学ぶ際に大いに参考にしたい。
読了日:01月15日 著者:斎藤兆史
魔境斬刻録 隣り合わせの灰と青春 1 (ボーダーコミックス)魔境斬刻録 隣り合わせの灰と青春 1 (ボーダーコミックス)感想
ファミコン版Wizardry Iを高校時代にプレイしており、原作小説も読んだのでこのコミカライズも読んでみた。固有名詞、呪文名、アイテム名、モンスター名などが差し替えられているのは惜しまれるが、Wizardry Iと原作小説の味わいは再現されていると思う。もう一度あの迷宮に潜ってみたいと思えた。
読了日:01月15日 著者:稲田 晃司
古代中国王朝史の誕生 ――歴史はどう記述されてきたか (ちくま新書 1771)古代中国王朝史の誕生 ――歴史はどう記述されてきたか (ちくま新書 1771)感想
甲骨文、金文、竹簡など出土文献、ならびに伝世文献から探る古代中国における歴史認識と歴史観の様相が興味深い。本書では、歴史認識と歴史観の時代と立場による変化を例に挙げ、歴史と(それを記録し、解釈し、記述する)人間は常に変化し、動いているということが示されている。さらにそこから現在の政治や社会に対する問題意識から過去の事象を議論する、あるいは過去の事象から現在の問題を見出す意識の萌芽を見いだしている。このあたりは著者も引用するE・H・カー『歴史とは何か』での指摘と相通じていて、非常に面白かった。
読了日:01月22日 著者:佐藤 信弥
無能の鷹(7) (KC KISS)無能の鷹(7) (KC KISS)感想
AI回とBBQ回が面白かった。全裸の株式予想男はなんじゃいなという感じ。今回は鷹野さんの面白さが今ひとつだった気がする。
読了日:01月23日 著者:はんざき 朝未
藤子・F・不二雄大全集 中年スーパーマン左江内氏/未来の想い出藤子・F・不二雄大全集 中年スーパーマン左江内氏/未来の想い出感想
スーパーマンとして超人的な力を身につけても結局は自分の周りの狭い範囲の事しか解決できない中年オヤジの哀歓を暖かく描く「中年スーパーマン左江内氏」。そして中年漫画家が時間をループする「未来の思い出」。あの時こうしておけば良かったと中年になると誰しも思う。自分も中年オヤジの一人として「刺さる」作品群だった。
読了日:01月23日 著者:藤子・F・ 不二雄
ライジングサンR(13) (アクションコミックス)ライジングサンR(13) (アクションコミックス)感想
「自衛官はスーパーマンじゃないよ」。本当にそうなんだよねえ。どうも世の中では賞賛にせよ批判にせよ、自衛官・自衛隊をスーパーマンみたいに言うところがある。どちらにしても自衛隊の実態には向き合っていない。私も元陸自なのでその辺のことを常に歯がゆく感じている。
読了日:01月24日 著者:藤原さとし
台湾漫遊鉄道のふたり (単行本)台湾漫遊鉄道のふたり (単行本)感想
日本人作家千鶴子と台湾人通訳千鶴の台湾漫遊。ふたりの友情と「百合」を細やかに描く。また、作品に登場する食べ物とその描写のおいしそうなこと!だが同時に支配者と被支配者という超えがたい壁も描かれる。千鶴子は善意の人であり、千鶴によくしてあげようとするが、千鶴にとってそれは善意の押しつけに過ぎないという苦さ。そして千鶴子は結局自分の見たい物だけを見ている。千鶴子は旅の終わりでようやくそれに気づく。自分も中国・台湾に関わる仕事をしているが、自分の行いも「独りよがりな善意」になっていないか深く考えさせられた。
読了日:01月31日 著者:楊 双子
先生、どうか皆の前でほめないで下さい: いい子症候群の若者たち先生、どうか皆の前でほめないで下さい: いい子症候群の若者たち感想
目立ちたくない、横並び、自分で決めたくない、挑戦したくない、周りから浮きたくない……。こうした「いい子症候群」の若者たち。著者も指摘しているが、こうした若者を生み出したのは結局のところ我々大人であり、彼らは今の日本社会に最適化した姿になったということだろう。著者いわく「何のことはない、今の若者はこの30年間、日本の大人たちがやってきた事をコピーしているに過ぎない」。まさしくその通りだと思った。読後、団塊ジュニア世代の大人の一人として何ができるのだろうかと考えた(まあ、特別なことはできないけども)。
読了日:02月08日 著者:金間 大介
高学歴難民 (講談社現代新書 2722)高学歴難民 (講談社現代新書 2722)感想
私自身も「高学歴難民」の一人としていろいろあったので本書の内容はよく理解できた。私は今はなんとか食えているが、本書に登場する高学歴難民に比べて何かが優れていたとは思えず、むしろ劣っている点ばかり。結局は運の差でしかなかったと思う。せっかくの高学歴を得たのに運に左右されるというのは切ない気がした。
読了日:02月10日 著者:阿部 恭子
ルポ 高学歴発達障害 (ちくま新書 1756)ルポ 高学歴発達障害 (ちくま新書 1756)感想
私も高学歴の発達障害当事者(ASD・ADHD)なので読んでいて非常に良く理解できた。自分の場合も「こんなこともできないのか」的なことをよく言われてきたように思うし、しばしば自己嫌悪にも陥ったことがある。また、本書で取り上げられているいろいろな方の事例と自分の事例を比較して、自分の発達障害者としての特性もより深く理解でき、大いに参考になった。
読了日:02月12日 著者:姫野 桂
発達障害者は〈擬態〉する――抑圧と生存戦略のカモフラージュ発達障害者は〈擬態〉する――抑圧と生存戦略のカモフラージュ感想
姫野桂『高学歴発達障害』にも登場されている著者による面白い視点の本。「普通」とか「世間」に合わせるための生存戦略として自分を「擬態」する発達障害者の意識、メタ的視点について述べている。本書でもさまざまなタイプの発達障害当事者にインタビューしており、参考になる点が多かった。本書に取り上げられた当事者で自分に近いのは第11章の「まごっと」さんだろうか。きちんと明文化されたルール、序列に納得した上で従うのは得意だが、それ以外とは戦うというところが発達障害者としての自分そっくり。
読了日:02月12日 著者:横道 誠
THE DESK リアルな「勉強机」から見えた大人の学び100のヒント (日経ホームマガジン 日経WOMAN別冊)THE DESK リアルな「勉強机」から見えた大人の学び100のヒント (日経ホームマガジン 日経WOMAN別冊)感想
いろいろな方の個性あふれる机が紹介されていて読んでいるだけで楽しい。自分の机はゴチャゴチャしているがこの本を参考にいろいろ整理してみようと思った。自分の理想、現在の課題をしっかり把握した上で、少しずつ勉強を進めていく姿勢には感服。本書で紹介されているやり方の中で自分に合っているものを少しずつ盗んでいきたい。また、興味深かったのはゲーミングチェアなど椅子にお金をかけている方が多いこと。自分も在宅フリーランスで長時間座り仕事をしているので、疲労軽減と姿勢改善のため、良い椅子を買ってみようかなと思った。
読了日:02月18日 著者:
中国農村の現在-「14億分の10億」のリアル (中公新書 2791)中国農村の現在-「14億分の10億」のリアル (中公新書 2791)感想
中国農村の現実について、歴史、現地調査、日本・インドなど他国との比較、理論(費孝通など)を踏まえつつ紹介する。興味深いのは、農村の「基層幹部」、つまり農村で直接農民と接する幹部たちは「官」として、他国では各自治体(官僚)、議員(政治家)の果たす役割の双方をになっていることで、また、それゆえに農村選挙が利権争いと混乱を招いた様子についても詳細に紹介されている。また、農村の県域の都市化により大都市の人口増加を抑制しつつ、農民を包摂し、政権の支持基盤としていくという習政権の政策についても述べられている。
読了日:02月25日 著者:田原 史起
清朝滅亡:戦争・動乱・革命の中国近代史一八九四―一九一二清朝滅亡:戦争・動乱・革命の中国近代史一八九四―一九一二感想
近年の中国での研究・新出史料を活かし、慈禧(西太后)、光緒帝、李鴻章、康有為、袁世凱、孫文らの人物群像を中心にドキュメンタリータッチで描き出す清末史。例えば、「海軍予算を流用して頤和園を修復した」説の真相、日清戦争、「公車上書」や「戊戌の政変」などでの康有為の行動の史実性、立憲と革命などについての新たな視点が紹介されている。近年のトレンドを反映した、実務家・政治家としての袁世凱再評価、孫文評価の相対化が読みどころか。また、奕劻、端方ら皇族・旗人内の体制内改革派の役割についても記述されている点もよかった。
読了日:03月02日 著者:杉山 祐之
謎の平安前期―桓武天皇から『源氏物語』誕生までの200年 (中公新書 2783)謎の平安前期―桓武天皇から『源氏物語』誕生までの200年 (中公新書 2783)感想
奈良時代から、我々がイメージする「平安時代」への移行過程としての平安前期約200年を描いている。政治に深く関わっていた女官の地位の低下、女官から「女房」への変化、実力主義の文人官僚登用制度から家学としての学問への変化、正史が編纂されなくなった理由、和歌の位置づけの変化など、興味深いトピックが多い。暴力を掌握する軍事貴族もこの頃に発生しており、後の武士の台頭への伏線となる。また、著者の専門である斎王についてかなり詳しい。文章も平易で、わかりやすい例えも多く、読みやすかった。
読了日:03月07日 著者:榎村 寛之
ジェンダー史10講 (岩波新書 新赤版 2010)ジェンダー史10講 (岩波新書 新赤版 2010)感想
ジェンダー史の手頃な入門書。第1〜3講では導入として、女性史・ジェンダー史の史学史としての概説が行われ、第4講以降では、歴史叙述と歴史教育、家族史、身体史、ナショナリズムと国民形成、軍事史、戦争、労働、福祉史、戦時性暴力などでの多岐にわたるジェンダー視点からの研究実践が紹介されている。個人的には、特に90年代以降の「新しい軍事史」におけるジェンダー史視点からの軍事史研究の紹介が興味深い。軍隊、戦争は「男性性」、「男らしさ」と国民形成と深い関係があることがわかり、ジェンダー史視点の重要性が理解できた。
読了日:03月08日 著者:姫岡 とし子
日本の月はまるく見える(1) (モーニング KC)日本の月はまるく見える(1) (モーニング KC)感想
強まる中国のBL漫画規制の中、主人公は日本で漫画を連載する道を模索していく。やはり中国人が書いているので日中両国の文化や事情の違いがリアルに描かれている。作中でも触れられているけど、中国では中高生の恋愛が禁止だったり、同性愛への偏見が非常に強かったりする。個人的には、主人公がネット上の「日本人はこうだ」というイメージ、先入観に囚われて考えすぎて失敗しまうところなどもリアルだと思った。今後の展開に注目したい。
読了日:03月09日 著者:史 セツキ
流出する日本人―海外移住の光と影 (中公新書 2794)流出する日本人―海外移住の光と影 (中公新書 2794)感想
前半部分では日本人の海外移住のさまざまな動機・要因(プッシュ要因)を取り上げ、それらが日本社会が抱えるさまざま課題を反映していることを指摘する。後半部分では海外移住先の要因(プル要因)、および海外移住につきまとうリスクと影の部分を論じている。その上で、海外への流出の要因となっている課題に向き合い、日本人にとっても外国人にとっても「より住み続けたい日本」を作ること、そして海外移住者とその子孫(ディアスポラ)を活かす戦略を説く。海外移住から見た日本社会論として読める。
読了日:03月20日 著者:大石 奈々
世界はラテン語でできている (SB新書 641)世界はラテン語でできている (SB新書 641)感想
歴史・政治・宗教・科学、はてはアニメ、ゲームなどさまざまな分野に現れ、現代でも使われているラテン語を広く紹介。個人的には、ネルチンスク条約のラテン語版条約文を紹介してくれたのがうれしい(当方清朝史専攻なので)。著者とヤマザキマリ氏との対談も収録されている。また、欧米におけるラテン語の特色と役割は、やはり東アジアにおける漢字・漢文の特色と役割に相当すると思えた。ラテン語とその歴史の紹介としてよくできていると思う。
読了日:03月23日 著者:ラテン語さん
ライジングサンR(14) (アクションコミックス)ライジングサンR(14) (アクションコミックス)感想
現場の実態を知らない好き勝手なSNS投稿が隊員の心を傷つける様をよく描いている。災害の度に見かける「ネット軍師」たち。「あるある」だなと思った。自分も犬井と同じ歯がゆさを感じることがある。明治2曹の台詞は至言。
読了日:03月28日 著者:藤原さとし
増補 天空の玉座 (法蔵館文庫)増補 天空の玉座 (法蔵館文庫)感想
主に、漢から唐までの朝政と元日に行われる元会儀礼への詳細な分析を通じ、皇帝と官僚たちによる意思決定システム、主従関係、さらには帝国的秩序について論じている。興味を引かれたのは朝政において、朝議を文書に残していくためのシステム、それを支える官僚群と最終意思決定者としての皇帝の存在である。また元会儀礼については儀礼自体のみならず、それを支える「貢納」を分析することで、皇帝・官僚の主従関係のみならず、中央・地方さらに周辺諸国・諸種族へ広がる帝国的秩序を鮮明に浮かび上がらせているところも面白く読めた。
読了日:04月13日 著者:渡辺 信一郎
清代知識人が語る官僚人生 (東方選書 62)清代知識人が語る官僚人生 (東方選書 62)感想
清代の官箴書(役人向けハンドブック)著者の黄六鴻がナレーターとなり、科挙受験、知県着任から知県としての職務、そして離任までを語り、そこから清代の官僚制、官僚の人生、地方行政の実態を明らかにしたユニークな本。やっぱり地方官にとって上司、地元の吏役(胥吏・非正規の役人)や郷紳の扱いは悩みの種だったらしい。民との関係の理想と現実との差も垣間見える。官僚、吏役、郷紳の生態について詳しく書かれており、清代という時代を知る上で非常に興味深い。役人たちの人間関係の機微などは今の日本にも通じる面があり面白かった。
読了日:05月04日 著者:山本英史
訟師の中国史 ――国家の鬼子と健訟 (筑摩選書 277)訟師の中国史 ――国家の鬼子と健訟 (筑摩選書 277)感想
中国の歴代王朝と「民の父母」たる地方官は訴訟と争い事をなくす徳治主義の理念に立脚していた。だが現実には中国近世の民間社会では紛争が激増し、民は受理されやすい訴状を作る必要に迫られる。ゆえに要らぬ訴えを起こす「訟棍」(訴訟ヤクザ)として度重なる弾圧を経てもなお訴状の代書を行う「訟師」が必要とされていく。著者は訟師を国家が生み出した「鬼子(おにご)」であったと位置づける。また英国・イスラム世界・日本との比較、現代中国での状況も紹介されており、示唆に富む。文書史料などにより実際の裁判事例も紹介されており面白い。
読了日:05月06日 著者:夫馬 進
後期日中戦争 華北戦線 太平洋戦争下の中国戦線2 (角川新書)後期日中戦争 華北戦線 太平洋戦争下の中国戦線2 (角川新書)感想
日中双方の史料の検討が慎重に行われている点に好感が持てた。それでも日本軍の戦争犯罪は歴然としている。また日本軍が「党、軍、官、民の組織体であって、単なる軍隊ではない」八路軍を軍事のみで鎮圧できないと理解しながら、目先の戦闘・作戦・工作次元にのみとらわれ、住民を敵に回し、有効な策を打てなかったことが語られる。そこには日本軍側の戦略眼の欠如があり、これは対国府軍戦、閻錫山工作にも通底していると感じた。そして当たり前のことだが、日中戦争は世界大戦とも連動しており、日本は中国にも敗れていたという著者の指摘は重要。
読了日:05月07日 著者:広中 一成
なぜ働いていると本が読めなくなるのか (集英社新書)なぜ働いていると本が読めなくなるのか (集英社新書)感想
自分も「働いていると本が読めなくなる」人間なのでタイトルに興味を引かれて一読した。著者は明治時代から現代までの労働と読書の関係の変遷を説く。そして、労働時間が長く、新自由主義の下で競争を強いられる現在ではネットから得られる「情報」(具体的にどう行動すべきか)ばかりが重んじられ、さまざまな複雑な文脈を含んだ「知識」を得られる読書が「ノイズ」となっているという見方は面白い。読書の余裕ができるよう「全身全霊」をやめ、「半身」で仕事しよう、そうした社会にしていくのがよいという意見には賛成。
読了日:05月07日 著者:三宅 香帆
声優魂 (星海社新書 62)声優魂 (星海社新書 62)感想
自ら仕事を作り出すことができず、待つことしかできない立場。しかし仕事が来たときのために研鑽を怠ってはいけない。声優に「就職した」と思ってはならないし、事務所に所属しても自動的に仕事が降ってくるわけではない。このあたりは翻訳者・通訳者などの業界とも類似しているように思えた。なぜその仕事をやりたいか、どういうビジョンを持って仕事すべきか、自分が本当にやりたいことは何かを自らに問うことが大事だとする著者の論にはうなずける。自分も翻訳という一芸で食べているので、著者の主張には大いに共感できた。
読了日:05月13日 著者:大塚 明夫
魔境斬刻録 隣り合わせの灰と青春 2 (ボーダーコミックス)魔境斬刻録 隣り合わせの灰と青春 2 (ボーダーコミックス)感想
原作小説でもそうだったが、『ウィザードリィ』のゲームシステムをうまく生かしたストーリーになっている。登場人物たちの心理描写もうまい。ベニー松山の新作短編も良かった。
読了日:05月18日 著者:稲田 晃司
ヌルハチ 朔北の将星 (講談社文庫 こ 72-11)ヌルハチ 朔北の将星 (講談社文庫 こ 72-11)感想
清朝が編纂したヌルハチの一代記『満洲実録』などの史料と近年の歴史研究をうまく作品に取り入れている。ヌルハチの「五大臣」(日本の「徳川四天王」に相当するかな)の一人のエイドゥを副主人公に据えたストーリーも巧み。小説の構成上、複数の史実を混ぜて一つの出来事にまとめたり、他の人物がしたことをエイドゥの事績にしたり、脚色を加えている箇所も多いが、これも史料と研究を消化して、わかった上でそうしているように見えた。文章も読みやすい。
読了日:05月19日 著者:小前 亮
両京十五日 1: 凶兆 (ハヤカワ・ミステリ)両京十五日 1: 凶兆 (ハヤカワ・ミステリ)感想
皇太子と下級役人と女医と捕吏の4人パーティーで北京を目指すノンストップサスペンスアクション。沿道の風物、庶民を搾取する商人、腐敗役人、社会の暗部に触れ、敵の陰謀をくぐり抜ける4人が面白い。そして4人それぞれの外見、心理、背景も生き生きと描き込まれていて「キャラ立ち」している。儒教の経典の言葉、ことわざなどなどの引用も機知に富んでいる。特に印象的なのは于謙で、大ピンチの中で皇太子に面と向かって「民を貴しとなし、社稷これに次ぎ、君を軽しとなす!」と言ってのける于謙はやっぱり于謙だなあと思った。
読了日:05月26日 著者:馬伯庸
元朝秘史―チンギス・カンの一級史料 (中公新書 2804)元朝秘史―チンギス・カンの一級史料 (中公新書 2804)感想
『元朝秘史』そのものの訳注ではなく、『元朝秘史』を読むためのガイドブック的な本。『元朝秘史』の解題、日本と海外での『元朝秘史』研究史、ストーリーの紹介と登場するモンゴル文化の解説、地名の比定、他史料との比較検討など盛り沢山の内容。個人的には、やっぱり「盟友(アンダ)」ジャムカの描き方、『元朝秘史』の数々の記述からうかがえる当時のモンゴル人の文化と考え方が非常に興味深い。また、考古学的成果も活かし、プロトモンゴル集団の発生、モンゴル高原の各部族と金・西遼との関係なども解説されている。非常に面白かった。
読了日:06月10日 著者:白石 典之
恐竜大陸 中国 (角川新書)恐竜大陸 中国 (角川新書)感想
中国で発見された恐竜化石について、発見の経緯、命名の由来、どのような生物であったか、学術的な意義などをわかりやすく解説している。羽毛恐竜など恐竜研究において重要な化石が中国で発見されていることも紹介されている。また、中国の恐竜研究者たちについても生き生きと描かれている。そして、中国における恐竜化石発見と恐竜研究、社会での恐竜の扱いは、その時代の政治、社会、経済の状況を反映したものとなっていることもわかる。特に近年の中国ネット社会と恐竜との関係は興味深い。本文の間に挟まれたコラムも面白い。
読了日:06月15日 著者:安田 峰俊
馮道 (法蔵館文庫)馮道 (法蔵館文庫)感想
法蔵館文庫に入ったのを機に再読。唐末五代の乱世を生き抜き、五朝八姓十一君に仕えた馮道の生涯とその時代を綴る。混乱を極めた時代の中、与えられた状況の中で最善を尽くして人民を守ろうとした意思、九経木版の印刷という文化面での功績、そして彼の人物像を多面的に描き出す。また、唐代以来の貴族の没落、節度使・軍隊の中から次代の王朝の建国者が次々と登場する有様により、中国における中世の終焉が描き出される。そして、乱世がようやく統一に向かい始めるころ、馮道がまるで役割を終えたかのように世を去ったのが印象的だった。
読了日:06月17日 著者:礪波 護
闇の中国語入門 (ちくま新書 1798)闇の中国語入門 (ちくま新書 1798)感想
中国の体制、そして市場経済は中国人に常にポジティブに努力し、競争し、向上するよう求める。だが、それに疲れ果て、メンタルや心の問題で悩み苦しみ、閉塞感と諦めを感じている中国の若者も多い。そうした中国の若者たちの心の闇と社会の闇を表すネガティブな言葉がいろいろ紹介されている。ネガティブな言葉から中国社会と中国の若者の心のありようを考察するユニークな中国論であり、中国語テキスト。実は自分もネガティブなことばかり考えてしまう人間なので、共感できる言葉が多かった。「そう、そうなんだよ!」と膝を打つ箇所が多かった。
読了日:06月22日 著者:楊 駿驍
室町ワンダーランド あなたの知らない「もうひとつの日本」室町ワンダーランド あなたの知らない「もうひとつの日本」感想
室町時代についての歴史エッセイ集。雑誌に連載されたものをまとめてあるので一つ一つの長さが適度で、文章も軽妙で読みやすい。歴史の大きな流れを述べる通史や概説書では取り上げられにくいこぼれ話や裏話をたくさん取り上げていて面白く読めた。そして主に第5章「歴史家の頭の中」では歴史家としてのあるべき姿勢がわかりやすく語られる。感想としては、当時と現在の日本・日本人は大いに異なり、またその反面大いに似ている点もあり、それゆえに室町時代には現在の日本・日本人について考えるヒントがたくさんあるように思えた。
読了日:06月27日 著者:清水 克行
ライジングサンR(15) (アクションコミックス)ライジングサンR(15) (アクションコミックス)感想
ピンチに立ったときは、やはり「準備」と「行動」の積み重ねが大事ということなのだと思った。生存者は発見されたが、まだ見つからない者がいる。迷う現場と指揮官、そして首相。命令には従うべきか、現場で判断するか?どうなる?というところで次巻へ。
読了日:06月27日 著者:藤原さとし
竹林の七賢 (講談社学術文庫 2822)竹林の七賢 (講談社学術文庫 2822)感想
「竹林の七賢」それぞれの生涯とエピソード、そして時代背景を紹介。終章ではなぜ後世に彼らが「竹林」の「七賢」としてまとめられたのかについて手短かながら考察している。やはり『世説新語』から引用される竹林の七賢の自由奔放なエピソードには憧れる。既存の価値観が揺れ動く魏晋時代の中で自由と自分らしさを貫こうとした彼らの生き方が、同じく既存の価値観が揺れ動く時代の中で生きる自分の心に響く。
読了日:07月06日 著者:吉川 忠夫
いつの空にも星が出ていた (講談社文庫 さ 97-4)いつの空にも星が出ていた (講談社文庫 さ 97-4)感想
大洋ホエールズと横浜ベイスターズにまつわる四つの物語。野球ファンの心情を実によく描写している。懐かしい試合と選手たちの描き方も良かった。個人的には弱かった時代が舞台となっている「ストラックアウト」が特に良かった。チームへの喜怒哀楽の混じった複雑な感情を抱き、どうしてもベイスターズから離れられない登場人物たちに、暗黒時代を経験した阪神ファンとして深く共感した。また「ダブルヘッダー」では一人の少年の旅と家族の歴史がそのままホエールズとベイスターズの歴史そして日本シリーズ進出へと重なっていく描写に惹かれた。
読了日:07月12日 著者:佐藤 多佳子
野球短歌 さっきまでセ界が全滅したことを私はぜんぜん知らなかった野球短歌 さっきまでセ界が全滅したことを私はぜんぜん知らなかった感想
2022年シーズンの阪神の試合後にすぐ詠んだ歌を集めたもの。阪神ファンとして、野球ファンとして心に刺さる歌が多い。「わかる!わかるなあ!」とページをめくる手がとまらない。「残塁の数を数えて甲子園きみは十二でぼくは九つ」、「サードから本塁までが遠すぎて半日かけてもたどりつけない」などなど喜怒哀楽の詰まった秀歌を挙げればきりがない。野球とそれを応援するファンの一瞬一瞬が三十一文字という簡潔明瞭な形式で鮮明に浮かび上がっているのが面白い。

読了日:07月14日 著者:池松 舞
中国不動産バブル (文春新書 1452)中国不動産バブル (文春新書 1452)感想
著者は中国の不動産バブルについて、日中両国の不動産バブルは現象面では似ているが本質的には異なる問題であると指摘している。著者は日本の不動産バブルの原因が市場の失敗であったのに対し、中国の不動産バブルの原因は政府の失敗によるところが大きいと説く。そして中国社会に内在する制度的歪み、ルールなき市場、不動産税の未導入、政策の問題点などを述べ、解決には抜本的な政治改革と経済改革が必要であると主張する。また、最近の習近平政権による直接的な市場統制にも批判的。
読了日:07月28日 著者:柯隆
人生はそれでも続く (新潮新書)人生はそれでも続く (新潮新書)感想
大きく報道された事件、脚光を浴びた人物たちのそれからの人生を綴っている。よくある「あの人は今?」企画とは異なり、蓄積された資料と高い取材力という新聞社としての強みを活かした内容となっている。対戦相手が死亡したレスラー、ゴースト作曲家、「腐ったミカン」の俳優、松井を5敬遠した投手、「生協の白石さん」、「タマちゃん」を「見守る会」など多くの人々の「あれから」をしっかりと描いている。特に印象的だったのは松井を5敬遠した投手がその後も野球を続け、今も野球に関わり続けていること。人生はそれでも続いていく。
読了日:07月29日 著者:読売新聞社会部「あれから」取材
モンゴル帝国 草原のダイナミズムと女たち (講談社現代新書 2749)モンゴル帝国 草原のダイナミズムと女たち (講談社現代新書 2749)感想
ジェンダー史視点と人類学的視点を盛り込んだモンゴル帝国期からポストモンゴル帝国期の通史。近年の研究成果に基づき、モンゴル史における女性の役割の大きさが紹介されている。また、『集史』・『世界征服者の歴史』などだけでなく『モンゴル秘史』さらに後世の年代記史料である『蒙古源流』・『黄金史』なども用いることにより、「史実」としてどうあったかだけでなく、後世に語られた歴史・解釈から、その背景にあるモンゴル人の文化・思想も明らかにされている。さらに、モンゴル語の解釈、現地調査のエピソードなど著者ならではの内容も多い。
読了日:08月07日 著者:楊 海英
スモークブルーの雨のち晴れ 5 (フルールコミックス)スモークブルーの雨のち晴れ 5 (フルールコミックス)感想
二人の関係性が良い。やっぱりアラフォーあたりなるといろいろ考えなければならないことが増えてくるよねえ。それと、「“一段落”っていつすんだろーなー」という台詞については、自分も仕事しててそう思うときがあるなあと思った。翻訳関連のお話とか「翻訳小言」も同業者として参考になる(私も翻訳者です)。
読了日:08月17日 著者:波真田かもめ
天幕のジャードゥーガル 4 (4) (ボニータコミックス)天幕のジャードゥーガル 4 (4) (ボニータコミックス)感想
トルイの死はやはり……。天幕での暗闘が新たな展開を迎えている。オゴタイの恐ろしさと底知れなさも描かれていて面白い。そしてオゴタイはファーティマに「お前やドレゲネが幸せになれるよう」にする「勝負」を挑む。だがそれはモンゴル帝国に幸せを奪われたファーティマの怒りと復讐の炎に油を注ぐことになった。このあたりは読んでいてハラハラした。モンゴルの習俗、天幕、小物、ケシクなど宮廷の制度の描き込みも細かく、東洋史を勉強していた自分にとって非常に楽しい。
読了日:08月17日 著者:トマトスープ
虎の血 阪神タイガース、謎の老人監督虎の血 阪神タイガース、謎の老人監督感想
プロ野球経験のない老人岸一郎がいきなり阪神の監督となり、わずか数ヶ月で解任され、その後の足取りも定かではない。著者は、この一連のミステリアスな騒動が「選手王様主義」というべき気質、電鉄本社の現場介入、派閥抗争、お家騒動などといったその後の阪神球団の悪しき伝統のきっかけとなったと指摘する。後半ではこの岸一郎の人生についてさまざまな関係者に取材を重ね、大学野球・満洲野球界での華麗なる球歴、阪神への監督就任・解任後の晩年の人生について解き明かす。そして藤村富美男の川藤への言葉は良くも悪くもこれが阪神だと思った。
読了日:08月18日 著者:村瀬 秀信
始皇帝の戦争と将軍たち 秦の中華統一を支えた近臣軍団 (朝日新書)始皇帝の戦争と将軍たち 秦の中華統一を支えた近臣軍団 (朝日新書)感想
前半は始皇帝の中華統一とそれを支えた近臣集団を解説。後半は秦の主な将軍・近臣、さらに趙の李牧、燕の太子丹ら秦に対抗した六国の英傑たちの列伝。『史記』など伝世文献への考証も興味深く、また『岳麓秦簡』など出土文献による近年の研究成果もよく活かされている。個人的には、始皇帝の近臣集団と漢の高祖集団との比較という視点が面白かった。さらに、『岳麓秦簡』の算数書『数』に記載された問題の読み解きにより描かれる、戦闘部隊・後方支援体制までを含めた秦の戦時動員体制の精緻さには改めて驚いた。秦の統一過程を知る上での良書。
読了日:08月24日 著者:鶴間 和幸
成瀬は天下を取りにいく成瀬は天下を取りにいく感想
実は私、パリーグは西武ファンなので、本書を表紙買いしました。個性的でマイペースなキャラクターの成瀬あかりと彼女を見守る島崎みゆきという面白い取り合わせの二人。成瀬のペースに巻き込まれて周りの世界が少し変化していく様子が面白い青春小説集。個人的に面白かったのは「ありがとう西武大津店」と「レッツゴーミシガン」。成瀬の夢が叶うといいなあと思った。
読了日:08月24日 著者:宮島 未奈
成瀬は信じた道をいく成瀬は信じた道をいく感想
成瀬シリーズ第二弾。ますます自分の信じた道を行く成瀬あかり。「ゼゼカラ」に憧れる小学生、成瀬あかりを見守る父親、近所のスーパーにクレームを入れまくる主婦、観光大使としてパートナーを組む女子大生それぞれの視点で成瀬あかりが描かれる。そして、成瀬の周りの彼ら彼女らが成瀬のペースに巻き込まれて少しずつ変わっていく姿が面白い。最後の「探さないでください」はオールスターキャストでハラハラドキドキ。成瀬あかり史がまた一ページ。ぜひデパートを建てて200歳まで生きてほしい。
読了日:08月24日 著者:宮島 未奈
中国共産党vsフェミニズム (ちくま新書 1812)中国共産党vsフェミニズム (ちくま新書 1812)感想
中国社会での近年のフェミニズムブーム、MeToo運動と当局の弾圧がよくまとめられている。中国でのいろいろな事件が映す男尊女卑、女性差別、セクハラ、そして少子化・非婚化などの問題は文化的に近い日本と類似していると感じた。一方で、中国でのフェミニズム運動が社会的広がり故に当局の警戒を受けていることは、「正しさ」を独占し、かつ人民が横につながることを許さない共産党政権らしい特色か。社会主義的な男女平等の建前が薄まり、家父長制へのバックラッシュ、男女平等の後退が習近平政権になって加速していることがわかる。
読了日:08月26日 著者:中澤 穣
アメリカ革命-独立戦争から憲法制定、民主主義の拡大まで (中公新書 2817)アメリカ革命-独立戦争から憲法制定、民主主義の拡大まで (中公新書 2817)感想
植民地時代からアメリカ独立革命、成文憲法の制定、民主政の拡大、西方への拡大と南北戦争までのアメリカ成立史を描く。これまでの白人・男性中心の視点を相対化するとともに、近年の研究の進展も反映されている。妥協とバランスの産物である成文憲法の制定、権力の分立、連邦政府と州の地位と権限、アメリカが当初から「帝国」的な性格を有していたこと、女性・黒人・先住民などマイノリティの問題など、現在のアメリカという国のありかたにもつながる数々の論点がすでに建国当初から現れていたことが興味深かった。
読了日:08月31日 著者:上村 剛
笑いで歴史学を変える方法 歴史初心者からアカデミアまで (星海社新書 306)笑いで歴史学を変える方法 歴史初心者からアカデミアまで (星海社新書 306)感想
本論の前提として、歴史初心者にありがちな誤解への解説を行っており、こちらの方がむしろ読み所かも。一般的なイメージとしての「歴史」と学問としての「歴史学」との違い、大学教員の仕事、学会業務、査読、史料読解、アマチュア歴史家のタイプとその活動方法など多岐にわたって触れられている。個人的には、品川弥二郎の書簡を例とした史料読解の解説が面白かった。私もアマチュアの歴史愛好者なので読んでいて参考になる点が多かった。「笑い」というテーマについては、真剣なおふざけとユーモアの大事さという点には賛同。
読了日:09月07日 著者:池田 さなえ
沖縄について私たちが知っておきたいこと (ちくまプリマー新書 457)沖縄について私たちが知っておきたいこと (ちくまプリマー新書 457)感想
「琉球処分」以降、本土から犠牲を強いられてきた沖縄の歴史と本土からの構造的差別について平易に述べている。読み所は最後の対談。「沖縄好き」のヤマトゥ(本土)の人々の無意識のコロニアリズムが痛烈に批判されている。沖縄はオリエンタリズムの対象として消費されてきた歴史があり、それが今も続いていると感じさせられた。
読了日:09月10日 著者:高橋 哲哉
天上恋歌 ~金の皇女と火の薬師~ 10 (10) (ボニータコミックス)天上恋歌 ~金の皇女と火の薬師~ 10 (10) (ボニータコミックス)感想
徽宗、恐ろしいというか底知れないお人ですな。すべてがどんでん返しになってしまった!ただ、その視野が宋の宮廷内や旧来の宋・遼・西夏関係の中に留まっているのは危うい。凜之の過去も明らかに。どうするどうなる?
読了日:09月13日 著者:青木朋
ケーキの切れない非行少年たち 1 (BUNCH COMICS)ケーキの切れない非行少年たち 1 (BUNCH COMICS)感想
1巻から9巻まで一気読み。自分も発達障害(ASD・ADHD)当事者で運動も勉強(特に算数・数学)が苦手だったので、本作に取り上げられている少年の行動にはいろいろ思い当たる点がある。まるで自分のことを書かれているような気がした。自分は幸いにして両親の理解、教師・精神科医など周りの人々の支援を得られて今があるが、それらに恵まれない人々がまだまだ多いことが改めてよくわかった。これはやはり社会全体で考えなければならない問題なのだろう。
読了日:09月15日 著者:
頼山陽──詩魂と史眼 (岩波新書 新赤版 2016)頼山陽──詩魂と史眼 (岩波新書 新赤版 2016)感想
頼山陽について、詩人としての面と史家としての面の両面から綴った評伝。彼の詩才について詳述しており、やはり頼山陽その人を反映した詩風であると感じた。そして人知を超える「勢」と歴史のさまざま局面「機」で人間がどう行動してきたかを考える歴史哲学、ならびに地理的条件に着目した歴史観を紹介しており、興味深く読めた。『日本外史』の執筆では『史記』や『左伝』を模した部分があり、また『日本政記』では天皇について忌憚のない評価を下しており、彼の「尊王」が決して盲目的なものではなかったことも紹介されている。面白く読めた。
読了日:09月16日 著者:揖斐 高
中国ぎらいのための中国史 (PHP新書)中国ぎらいのための中国史 (PHP新書)感想
中国政府・共産党、習近平の政策や言動、中国社会には、実は古代から続く中国の歴史が濃密に反映されていることが数々の例を挙げて説明されている。本書を読めば、中国の歴史を知ることは現在の中国を分析する上でも有用であることがわかる。個人的に面白かったのは「元寇」からわかる中国における元(モンゴル)史の位置と扱いの難しさ、唐と明の歴史とその「一帯一路」における利用、水滸伝などなどのトピック。最終章で、体制教学だった毛沢東思想が「負け組」が救いを求める思想となっていることを紹介しているところも興味深く読めた。
読了日:09月19日 著者:安田 峰俊
ケーキの切れない非行少年たち (新潮新書)ケーキの切れない非行少年たち (新潮新書)感想
コミカライズ版を読んだので原書である本書も読んでみた。私もASD・ADHD当事者なので非行少年たちの心理と言動には思い当たる点が多かった。自分もいろいろ苦労してきた中で幸いにして理解や支援が得られて今があるが、そうした理解や支援からこぼれ落ちる人々が多いことが改めてよくわかった。やはり社会全体で考えていく必要があるのかもしれない。
読了日:09月21日 著者:宮口 幸治
どうしても頑張れない人たち~ケーキの切れない非行少年たち2 (新潮新書)どうしても頑張れない人たち~ケーキの切れない非行少年たち2 (新潮新書)感想
発達障害を持っていたり、認知機能や「後先を考える」思考に問題があり、勉強やさまざまなことがうまくできず「どうしても頑張れない人」。そうした支援対象者には、単純な「やればできる」と「頑張らなくていい」のどちらも逆効果であることが事例を挙げて詳述されている。「支援をしたくないと思うような人ほど支援が必要」という言葉の重要さと実行に当たっての難しさについても考えさせられた。そして、支援者を支援すべきという意見には深くうなずかされた。
読了日:09月21日 著者:宮口 幸治
歪んだ幸せを求める人たち:ケーキの切れない非行少年たち3 (新潮新書 1050)歪んだ幸せを求める人たち:ケーキの切れない非行少年たち3 (新潮新書 1050)感想
誰しもみな幸せになりたい。だがいろいろな認知の歪みで人は間違った方法を取り、自分と他人を不幸にしてしまう。認知の歪みをもたらすのは、怒り、嫉妬、所有欲、固定観念などなど。そこで、著者は問題を整理し、解決する問題解決トレーニングの方法、感情をコントロールする方法、自分と他人の持つストーリーを理解して客観視することを提案している。参考にしたい。
読了日:09月21日 著者:宮口 幸治
歴史学はこう考える (ちくま新書 1815)歴史学はこう考える (ちくま新書 1815)感想
歴史学の考え方をわかりやすく語る。そもそも「史料」とは何かから始めて、史料批判、史料の記述から何が言えるか、政治史・経済史・社会史それぞれの論文を例とした論文の書き方、ランケに始まる近代歴史学とマルクス主義的な歴史研究、時代区分の問題などなど歴史学の重要なトピックに言及。いずれも具体的にわかりやすく説明されていて非常に参考になった。歴史家と読者の思想や立場の違いにかかわらず、史料に基づきその史料の述べていることを読み取ろうという努力を怠っていない限りは、その論文は読むに値するという著者の語りかけが印象的。
読了日:09月23日 著者:松沢 裕作
ライジングサンR(16) (アクションコミックス)ライジングサンR(16) (アクションコミックス)感想
撤退命令が出る中、ついに生存者を発見。しかし山がまたも揺れる。内閣内部の思惑も交錯。どうなる?というところで次巻へ。
読了日:09月26日 著者:藤原さとし
日中競作唐代SFアンソロジー-長安ラッパー李白 (単行本)日中競作唐代SFアンソロジー-長安ラッパー李白 (単行本)感想
日中作家による唐代をテーマとしたSFアンソロジー。個人的に面白かったのは以下の作品。祝佳音「大空の鷹――貞観航空隊の栄光」は米国のイラク戦争など「テロとの戦い」を太宗の高句麗遠征に置き換えた怪作。ミリタリーネタを知っているとにやりとできる。李夏による表題作は唐詩の押韻をラップのライムに見立てていて面白い。十三不塔「仮名の児」はいわば書道SF。ラストですべてが氷解する。立原透耶「シン・魚玄機」は魚玄機のたくましさと女性二人の絆を詩的に描いていて良かった。
読了日:09月26日 著者:円城 塔,十三不塔,立原 透耶,灰都 とおり
日本の月はまるく見える(2) (モーニングKC)日本の月はまるく見える(2) (モーニングKC)感想
日本でのBL漫画連載に向け奮闘する主人公。贈り物など中国と日本の文化の違いについてもよく描かれている。中国の庶民の文化、BL漫画ではない現実のゲイの立ち位置についても触れられている。主人公の母のキャラも興味深くて、いかにも中国庶民のお母さんだなあと感じる。娘思いで娘の夢を応援するけど、一方で女の幸せは結婚だと考えているところは特にそう感じる。あと日本の老人ホームを礼賛する情報も登場。実際、中国のネットでは日本/日本人を礼賛する情報も多い。
読了日:09月30日 著者:史 セツキ
ミライライフライ(1) (アフタヌーンKC)ミライライフライ(1) (アフタヌーンKC)感想
中国の「北清大学」(北京大学がモデルか)の学生舒念がドキュメンタリーを撮るために奮闘。後輩が入水自殺を図る。受験戦争を勝ち抜いて大学に来ても将来は保証されていない。中国の最高学府であっても大学中退者も多い。取材をすれば大学生と庶民たちの生きづらさが浮かび上がる。そして至る所にある監視カメラと警察という監視社会で不満を漏らす隙すらない。「閉塞感」の一言。そして、私はこの漫画のあらすじをとある中国人の友人に説明したら「有的是」(当たり前だ、ありふれている)と言われた。どないせえっちゅうんじゃ!と叫びたい!
読了日:10月01日 著者:雨田 青
積ん読の本積ん読の本感想
12人の著名な積ん読家たちのインタビュー。読書遍歴、読書への考え方、積ん読への考え方がみんな違ってみんな面白い。個人的には山本貴光氏の「本は自分の関心事が物の形を取った、知識のインデックスみたいなものなので、必要になったときに読めばいい」という考え方に共感する。また小川公代氏の語る、女性は男性に比べ自分の時間と空間を確保すること自体が困難だという事実には本好きとして考えさせられた。そして管啓次郎氏の「積ん読は恐れなくていい。本は読めないものだからです」という言葉には力づけられた。
読了日:10月06日 著者:石井千湖
日本のなかの中国 (日経プレミアシリーズ)日本のなかの中国 (日経プレミアシリーズ)感想
中国人が中国語だけで生活できる「エコシステム」、「経済ネットワーク」が日本で形成されていることを多方面での取材で明らかにしている。そして、その背景にはSNS、ネットの発達で在日中国人同士、中国人と母国がつながりやすくなったことがあると指摘している。日本にいるのに中国社会の論理、政治を持ち込む人がいたり、中国人の間で富裕層・中間層・庶民層といった多層化が進んでいることなど興味深い内容多し。一方で、日本社会に溶け込む努力をする中国人も多いことにも触れられている。面白いルポルタージュ。
読了日:10月06日 著者:中島恵
無能の鷹(8) (KC Kiss)無能の鷹(8) (KC Kiss)感想
本巻が最終巻とは残念。ロボットの話が面白い。鷹野さんは不思議でしかも魅力的なキャラだったなあ。そして鶸田君をはじめとして、周りを少しずつ変えていた。独特な面白さを持った作品だった。
読了日:10月12日 著者:はんざき 朝未
マンガでよくわかる! 発達障害の人が見ている世界マンガでよくわかる! 発達障害の人が見ている世界感想
発達障害当事者の自分としては、定型発達(「普通」の人々)から自分がどう見えているのかがわかった漫画。これを参考に世の中に「アジャスト」していきたいと思った。
読了日:10月16日 著者:
女の園の星 1 (フィールコミックス)女の園の星 1 (フィールコミックス)感想
女子高という「女の園」に勤務する「星」先生と同僚たちと生徒たちの物語。淡々とした描写ながら独特のなんとも言えない味わいがありジワジワくる面白さがある。特に学級日誌の話とクラス犬セツコの話と観察日記の話が面白かった。
読了日:10月20日 著者:和山やま
女の園の星 2 (フィールコミックス)女の園の星 2 (フィールコミックス)感想
「クワガタボーイ」、「うどんまん」、「タペストリー」の話が特に好き。日常にありそうでありながらシュールなところもあり、なぜかジワジワくる独特な味わいのギャグ。登場人物では小林先生と漫画家志望の子がいいなあと思う。そして高校生独特のノリと空気感には星先生同様「あの頃に帰りたい」と思った。
読了日:10月20日 著者:和山やま
教育虐待 ―子供を壊す「教育熱心」な親たち 1 (バンチコミックス)教育虐待 ―子供を壊す「教育熱心」な親たち 1 (バンチコミックス)感想
『東洋経済オンライン』で紹介されていたので読む。はっきり言ってホラー漫画レベル。かなり強烈な描写。現在の格差社会への不安から子供への受験教育に狂奔する親、そして親の不安を学習塾などが煽り、つけこんでいる様子、それによって心が壊れていく子供が描かれている。
読了日:11月04日 著者:ワダ ユウキ
教育虐待: 子供を壊す「教育熱心」な親たち (ハヤカワ新書)教育虐待: 子供を壊す「教育熱心」な親たち (ハヤカワ新書)感想
教育虐待の定義、事例、医学の観点からの教育虐待、時代的・社会的背景、支援者の取り組みなどについて紹介。親が子供に自分の夢や希望を勝手に背負わせて勉強を無理強いして子供の心を壊していく事例の数々には慄然とさせられた。言い古されたことだが、子供は親の所有物ではなく、別人格の独立した人間であることに気がついていない親が多いのだろうと感じた。また、本書に紹介されている受験教育に狂奔する親たちと中学受験ブームは、近年の格差と競争がさらに激化している社会の縮図にも見える。
読了日:11月04日 著者:石井 光太
女の園の星 3 (フィールコミックス FCswing)女の園の星 3 (フィールコミックス FCswing)感想
ジワジワきてクスッと笑えるギャグと独特なゆるさ加減がたまらない。星先生と奥さんのエピソードも微笑ましいし、風邪で寝込む星先生の夢も可笑しい。赴任当初の星先生が小林先生と出会う話、三者面談も面白い。好きだなあこの作品。
読了日:11月04日 著者:和山やま
女の園の星 4 (フィールコミックス)女の園の星 4 (フィールコミックス)感想
夏休み中の星先生と生徒たち。初田先生のエピソードが好き。小林先生の京都の甥っ子の京都弁がGood!職員室という大人社会に闖入してきた子供の言動がいちいちおもろい。星先生の観察日記を想像で書く鳥井さんもおもろい。別になにもイベントはなく、緩い日常が展開していくのだが、時々シュールなギャグがはさまれており楽しい。卒アル写真のデカ真珠ネックレスとデカ肩パッドが最高w
読了日:11月09日 著者:和山やま
道を拓く 元プロ野球選手の転職道を拓く 元プロ野球選手の転職感想
元プロ野球選手たちの引退後の歩みを描く。保育士、讃岐うどん屋、機動隊員、パティシエ、公認会計士、競輪選手などなど実にさまざまな人生がある。彼らの多くはプロ野球で挫折を経験し、いったんは野球を離れ、「元プロ野球選手」という肩書を重荷に感じることもあったが、新しい人生を歩み出すとともに、「元プロ野球選手」だった自分を肯定できるようになっていく。著者が述べるように「再生」と「自己肯定」の物語となっている。自分も数々の挫折と方向転換を経て現在に至っているので、元プロ野球選手たちの人生と彼らの語る言葉には共感した。
読了日:11月09日 著者:長谷川 晶一
加耶/任那―古代朝鮮に倭の拠点はあったか (中公新書 2828)加耶/任那―古代朝鮮に倭の拠点はあったか (中公新書 2828)感想
加耶/任那の歴史と研究史についてよくまとまっている。『日本書紀』と『日本書紀』に引用される百済三書、『広開土王碑』の史料的性格についての議論も興味深い。著者は「任那日本府」は、倭国の出先機関でも領域支配機構でもなく、現地で土着した倭系の人々の総称であったとする。そして倭国の統制に従わない独立的存在であり、反百済・親新羅的な行動を取ったり、加耶/任那の独立を守るために行動したことも紹介されている。こうしたマージナルな存在は近代以降の国民国家・国境・民族などといった枠組では捉えきれないが、それゆえに興味深い。
読了日:11月09日 著者:仁藤 敦史
ラシード・アッディーン: モンゴル帝国期イランの「名宰相」 (世界史リブレット人 023)ラシード・アッディーン: モンゴル帝国期イランの「名宰相」 (世界史リブレット人 023)感想
ラシード・アッディーンとイル・ハン朝についてのコンパクトかつ貴重な概説書。外来政権かつモンゴル帝国の各部族・集団、イラン系官僚などの寄り合い所帯であり、正当性、統治体制の確立と権力闘争に悩まされたイル・ハン朝の歴史がうまくまとめられている。また『集史』の枠組が詳しく紹介されている。特に『集史』の「モンゴル史」部分がモンゴル帝国の構成を忠実に描く一方で、イスラーム的人類史観にも基づいている点が興味深かった。東西の知の交流を背景とし、その担い手ともなったラシードの生涯とその時代について面白く読めた。
読了日:11月16日 著者:渡部 良子
就職氷河期世代-データで読み解く所得・家族形成・格差 (中公新書 2825)就職氷河期世代-データで読み解く所得・家族形成・格差 (中公新書 2825)感想
まず「就職氷河期世代」をきちんと定義する。その上で個人的な経験、印象ではなく、統計データに基づき就職氷河期世代の実態を明らかにしていく。大方の印象とは異なり、少子化はバブル崩壊以前から始まっていること、就職氷河期の地域間格差、ポスト氷河期世代の雇用状況も就職氷河期前期世代と同水準だったこと、就職氷河期後期世代の方が団塊ジュニア世代より出産数が多いことなど「目からウロコ」の指摘が多い。各章ごとの「まとめ」もわかりやすい。問題を先送りせず、正しいデータと証拠に基づいて問題を解決することが大切だと感じた。
読了日:11月16日 著者:近藤 絢子
言語学バーリ・トゥード: Round 1 AIは「絶対に押すなよ」を理解できるか言語学バーリ・トゥード: Round 1 AIは「絶対に押すなよ」を理解できるか感想
笑えて、しかも言語学の学識に裏打ちされた深い内容。アラフィフのプロレスファンには「刺さる」ネタが多すぎw(この「w」や「草」についての考察もある)。ラッシャー木村の「こんばんは」に、なぜファンはズッコケたのかを追究。「絶対に押すなよ」から言葉の意図、意味、文脈、さらにAIについて考える。AIが「絶対に押すなよ」を理解するのはかなり難しいらしい。ユーミンの名曲をなぜ「恋人「は」サンタクロース」と勘違いしてしまうのかから、「は」と「が」の違いを言語学的に考える。……などなどどれも面白かった。
読了日:11月23日 著者:川添 愛
乙嫁語り 15 (青騎士コミックス)乙嫁語り 15 (青騎士コミックス)感想
英国に向かうタラスとスミス。船乗り猫とチュバルの関係が面白い。19世紀半ば頃のロンドンと英国の描写がこれまた細かい。今より「外国」が遠い存在である時代、スミスさんに付いていくタラスさんも相当勇気があると思う。タラスさんの文化比較の視点もなかなか。スミスさんの親御さん特に母親にはなかなか結婚を理解してもらえず、とりあえず伝手を頼って二人で田舎暮らし。そして二人は結婚のためスコットランドへ。元姑さんにもタラスが生きていると伝わって良かった。アリとツンデレ新妻マディナさんも微笑ましくて良かった。
読了日:11月24日 著者:森 薫
言語学バーリ・トゥード Round 2: 言語版SASUKEに挑む言語学バーリ・トゥード Round 2: 言語版SASUKEに挑む感想
言語と言語学について楽しみながら知ることができる本。プロレス愛にもあふれている。chatGPTなどの「言語モデル」についての解説2編が非常に楽しくてわかりやすかった。言語モデルのしくみとその問題点についてもしっかり触れている。倒置について、「飛龍革命」やジョジョを引用しながら、それでいて言語学の研究成果を踏まえて語るのも最高。メトミニーについての紹介、外国語効果や「-がち」用法についての考察も興味深い。「日本語は曖昧」、「日本語は非論理的」という俗説を論理的に否定するところも良かった。
読了日:11月24日 著者:川添 愛
「プロレススーパースター列伝」秘録「プロレススーパースター列伝」秘録感想
私は大人になってから漫画『プロレススーパースター列伝』を読んだ。当時すでに本作品に登場する「アントニオ猪木(談)」やプロレスラーの伝説的エピソードの多くが虚構であることが広く知られていた。だがそれでもこの漫画には人を引きつけるものがあった。その秘密はやはり本書で語られる原作者梶原一騎先生と原田久仁信先生の真剣さ、あうんの呼吸、そして虚構の中で人間の本質を描く両先生の力量だったことがわかった。描き下ろし漫画「『列伝』よ、永遠なれ――梶原一騎先生に捧げる」も素晴らしい。本書は良書である!以上、俺(談)。
読了日:12月02日 著者:原田 久仁信
Sports Graphic Number 2024年 12/26 号 [雑誌]Sports Graphic Number 2024年 12/26 号 [雑誌]感想
岡田彰布前監督特集。阪神タイガースという球団で監督をやるというのは心身共にハードなことなのだと思い知らされる。巨人との天王山2連戦と監督としての最後の試合となったCSファーストステージ第2戦のドキュメントは深い内容だった。それから平田勝男前ヘッドコーチ(現二軍監督)、各選手への連続インタビューから見た岡田監督の姿は読み応えあり。特に佐藤輝明へのインタビューは悔しかった今シーズンを象徴するような内容で興味深かった。大学時代、オリックス時代についての記事からも後年の指導者岡田彰布の片鱗がうかがえた。
読了日:12月12日 著者:
まるで渡り鳥のように: 藤井太洋SF短編集 (創元日本SF叢書)まるで渡り鳥のように: 藤井太洋SF短編集 (創元日本SF叢書)感想
人類の前途と技術の発展について希望を抱かせてくれる作品群。所収作品の中で一番のお気に入りは「祖母の龍」。軌道ステーションで活躍する奄美のユタ(巫女)の物語。人類が宇宙に進出したはるか未来の時代でもなお奄美の文化が復興し、存続している世界。私も徳之島にルーツを持つ大阪育ちの奄美人二世なので、そうあって欲しいなと思って非常に楽しく読んだ。『銀河英雄伝説』トリビュート「晴れあがる銀河」は銀河帝国初期を描き、本編へとつながっていく物語。ルドルフ体制が固まっていく不気味な雰囲気の中にも希望が見いだせる。
読了日:12月21日 著者:藤井 太洋
『孫子』の読書史 「解答のない兵法」の魅力 (講談社学術文庫 2841)『孫子』の読書史 「解答のない兵法」の魅力 (講談社学術文庫 2841)感想
本書では『孫子』が人間集団の運動を簡潔に記し、そこには勝つための具体的な「解答」が書かれているわけではないこと、それゆえに『孫子』が抽象性と普遍性を持つことに着目する。そしてそのために『孫子』が中国、日本および世界でさまざまな読まれ方をされてきたことを紹介する。第I部は『孫子』の成立と銀雀山漢簡本の位置づけ、前近代中国と日本での『孫子』、満洲語訳からの仏訳、近現代日本、中国、西洋での受容など読み応えがある。第II部も西夏語訳の紹介など読み所が多い。「学術文庫版へのあとがき」では今世紀の状況について補足。
読了日:12月22日 著者:平田 昌司
開業から3年以内に8割が潰れるラーメン屋を失敗を重ねながら10年も続けてきたプロレスラーが伝える「してはいけない」逆説ビジネス学開業から3年以内に8割が潰れるラーメン屋を失敗を重ねながら10年も続けてきたプロレスラーが伝える「してはいけない」逆説ビジネス学感想
一人のプロレスラーが失敗を重ねながらラーメン屋を経営してきたことで得た教訓がこれでもかと書かれている。ラーメン屋で利益を出すのは本当に大変なことなのだと思い知った。そして「お客さんは手間を買ってくれない」。いくら手間をかけても目に見えない部分にはお金を払ってくれない。だが川田は手を抜くことは拒み、「手間をかけていることは気づいてもらえないけれども、手を抜いてしまったら、即座にそれはバレるからだ」と説く。これは本当に至言だと思う。業種は違えど自分も仕事をしてきてそれを感じるからだ。
読了日:12月31日 著者:川田 利明
力道山──「プロレス神話」と戦後日本 (岩波新書 新赤版 2046)力道山──「プロレス神話」と戦後日本 (岩波新書 新赤版 2046)感想
力道山について特にプロレスデビューまでの経緯が丁寧に記されている。面白いのは、当時の対談記事などから力道山の持つプロレス観を指摘している点で、そこに「八百長」論とそれに対する反論、プロレスの暗黙のルールなどその後のプロレスでの主要な論点がすでに現れている。またこれまで力道山とプロレスとの出会いのきっかけとされてきた日系レスラーハロルド坂田との喧嘩のエピソードなど、これまでの「神話」や「定説」に疑問を呈しているところも読み所。デビュー前からすでに米国、政財界との人脈が太かったのも興味深い。
読了日:12月31日 著者:斎藤 文彦

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