屈春海『清宮档案解読』
屈春海『清宮档案解読』華文出版社 2007年4月
昨日、大連図書城にて購入。
冒頭で清朝の文書行政制度と档案史料について概説し(入門として非常に良くできている)、次いで清朝史のいろいろな事件について档案史料をもとにわかりやすく述べている。
まだすべてを精読したわけではないが、興味深い点は以下の通り。
・载淳皇帝丧仪活动及其死因探秘同治帝の葬儀とその死因について、档案を用いて検討。残された「脈案」(カルテ)や「進薬档」(処方箋)によれば死因は天然痘であり、梅毒説は信頼できない俗説。この章では、同治帝の病状について「脈案」と「進薬档」に基づいて非常に事細かく述べてあり、読んでいて気持ち悪いぐらい。同治帝の天然痘の末期症状が梅毒の晩期に似通っていたことが梅毒説を生んだらしい。・皇宫医案破解光绪猝死之谜光緒帝の死因について。西太后が亡くなる一日前に突然死亡したことから、古くから毒殺、暗殺説が流布。だが「脈案」によれば死因は毒殺や突然死ではなく、病状が少しずつ進行して死に到ったもので、西太后の一日前に亡くなったのは単なる偶然。(結核や心臓、肝臓の慢性的な病気と免疫力低下による急性感染と推測)。1980年に遺体を解剖した結果、外傷はなく、頭髪や頸椎を分析した結果、毒物による中毒症状も見られなかった。・真龙天子的医疗与保健清代紫禁城内の医療制度について概説。皇帝といえども人間、当然病気にはかかる。・清代第一贪污大案乾隆四十六年(1781)、甘粛省で起こった一大汚職事件を档案史料から読み取っていく。付表には事件関係者の姓名、官職、任地、原籍、罪名、処罰、その後の運命が記されているが、その多さと横領金額の大きさにびっくり。まさに天文学的数字!読んでいて気が遠くなった。・清末延长油矿建立述略中国最初の近代的油井で、石油化学工業の草分けである陝西省北部の延長油田の設立について。日本人技術者を招聘、日本製の設備(日本唯一の産油地帯である新潟県製)を導入し、光緒三十三年(1907)生産開始。地図で探してみるとかなり辺鄙な場所。清末に日本人がこんなところにまで足をのばしていたとは知らなかった。外務部档案の契約書に記された日本人技術者の給与や待遇も興味深い。最高で月給900銀元、最低60元。その他東京からの往復旅費、食費などがついた。休日は月2日、九時間労働、昼夜交代制。
この他にも面白い内容がたくさんあるが、なにぶんまだすべてを読んだわけではないし、内容も多岐にわたるので、ここで全てを紹介することはできない。
一般向けの本としてはかなり詳細な内容だし、読み物としても面白い。
これからも折にふれて内容を紹介していきたい。