単純な図式化に陥らない地道な研究――磯部淳史『清初皇帝政治の研究』 (立命館大学文学部人文学研究叢書)
磯部淳史『清初皇帝政治の研究』立命館大学文学部人文学研究叢書、風間書房、2016年3月
本書では、主に清朝初期の太宗、ドルゴン政権、順治帝親政期の三つの政権を扱っている。
太宗、ドルゴン政権、順治帝親政期につき、従来は六部、内閣、十三衙門など明朝の諸制度・諸機関の導入から、八旗制の分権的構造に対抗する「漢化」・「中央集権化」という図式化が行われがちであった。
また、政治史についても「皇帝・漢人官僚」対「旗王・権門」という図式化がなされてきた。
本書において、著者は六部、内三院、内閣、旗王、グサ=エジェン、十三衙門など各種国家機関の制度、各種国家機関の構成員及び皇族・旗王・旗人の婚姻関係・人間関係につき検討を行った。
そして太宗、ドルゴン政権、順治帝親政期の三つの政権いずれもが八旗の旗王としての立場から、あくまで八旗制の枠組の中で政権を構想していたことを指摘する。
さらに、「補論 清朝皇帝と三藩」では、三藩の乱の研究史と問題の所在、今後の展望がコンパクトにまとめられており、三藩の研究を行う者にとり必読の内容となっている。
単純な図式化に陥ることなく、史料を地道に具体的に検討することで見えてくるものがある。
清朝初期の政治史を見ていく上で必読書と言える。
(本書評は「読書メーター」に掲載した内容に修正・加筆を行ったものです)