裏面から見た中国政治史――三田村泰助『宦官――側近政治の構造』
三田村泰助『宦官――側近政治の構造』(中公新書)、中央公論新社(改版)、2012年10月
(原著:中央公論社、1963年1月出版)
裏面からみた中国政治史。
宦官制度の沿革についてよくまとまっており、さらに宦官を中国政治史の流れの中にうまく位置づけている。
単に宦官を「異形」の存在として扱うことをしていないのは高く評価できる。
面白かったのは、一見同じような宦官専横であっても、時代によって中身が異なる事。
漢代・唐代では宦官・宦官集団自体が大きな力を持っていた。
宦官は皇帝を超える力を持ち、皇帝さえ思うままに廃立さらには弑逆した。
だが、強力な皇帝独裁制が確立した明代では宦官はあくまで皇帝の秘書。それ故に皇帝が特定の個人を寵愛するときだけその人物が権威を振るうが、皇帝から捨てられるか皇帝が死去するとたちまち失脚してしまう。
皇帝の寵愛を受けて思うがままに振る舞った魏忠賢も、後ろ盾の天啓帝が死去するとたちまち失脚した。
そして最後に、終章2「現代における宦官的存在」において、権力に直属し情報を独占する側近グループ、この組織としての宦官的存在は現在においても無縁のものではないと説く。
私個人の感想を述べれば、これは現在の日本を含む世界各国の政府、大企業、その他ありとあらゆる権力機構全てにもあてはまる話で、宦官が行ってきた側近政治的なものは国家と社会のあちこちにいまだに生き残っていると思える。
著者が本書を著したのは五十年以上前になるが、側近政治とそれによる専横は今でも無縁の話題ではない。
(本書評は「読書メーター」に掲載した内容に修正・加筆を行ったものです)