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岡本隆司『李鴻章――東アジアの近代』岩波新書1340、2011年11月

 
 李鴻章という清朝末期の巨人の評伝。コンパクトで読みやすかった。

 個人的に興味深かったのは、日清修好条規の清朝側の狙いが「属国」朝鮮への侵攻の予防だったとする見解、及び「所属邦土」という文言の解釈をめぐる日清間の食い違い。そして、朝鮮半島をめぐる綱引きと日清間の食い違い。
 思えばこうした食い違いの積み重ねが後の日清戦争の原因ともなったわけで、これを単純に「過去のこと」と片付けてはいけないと感じた。

 

 そして李鴻章の「洋務運動」での数々の改革について取り上げられているが、いくら改革を行おうとしても、結局は「清議」と呼ばれる現実離れした「正論」に足を引っ張られてしまうあたり、改革が中途半端に終わったのも仕方がないなと思えた。李鴻章は元部下への書函文で焦りと不満をぶちまけている。
 この点は、現在の日本も他山の石とすべきだと感じた。

 やがて日清戦争で日本に敗れ、自らが築き上げてきたものが失われ、古希を迎えても、なおも李鴻章は清朝のために馬車馬のように働き続けなければならなかった。 
 本文の最後に引用されている彼の臨終の詩の一節には、彼の諦念と悔いとがにじみ出ている。

 それから本書で取り上げられている「海防」(海洋指向)と「塞防」(内陸指向)の政策論争とその後の展開だが、これはユーラシア大陸の東端に位置する中国という国のあり方に関わる宿命的課題で、当時は折衷論が採用され、現代の中華人民共和国においてもまだ決着がついていない。
 あるいは、現在、中国政府が掲げているスローガン「一帯一路」(海と陸のシルクロード構想)はその現代版なのかなとも想像。

 李鴻章と彼の行ったことは、現在の中国、日本、ひいては東アジア全体に影響を与えている。
 今、大国となった中国を見て、李鴻章は何を思うだろうか。