『未来を開く歴史―東アジア3国の近現代史』

日中韓3国共通歴史教材委員会(編)『未来をひらく歴史―東アジア3国の近現代史』高文研、2005年5月

扶桑社の『新しい歴史教科書』に対抗して、日中韓三国の学者が共同執筆した教科書。

記述範囲は19世紀後半から現在にいたる日中韓三国の関係史。三国相互の関係に記述の重点が置かれ、各国国内の歴史にはあまり深く触れられていない。他の教科書、歴史書と合わせて読むのがいいだろう。

興味を引くのは、留学生を通じた中国への日本文化の伝播、20世紀以降の朝鮮大衆文化の発展(日本の影響が大きい)など、本書ならではの記述も多い。

しかし、こうした日本の「正」の影響に関する記述はわずかで、重点はやはり日本のアジア侵略という「負」の側面である。特に、日中戦争、満洲国には多くのページが割かれ、そのほか戦後補償、靖国問題、慰安婦問題もかなり詳しく取り上げている。

以下、自分の感想を述べる。

まず内容について。

自分としては、もう少し日本の「正」(プラス)面を多く取り上げてほしい気がする。特に戦後の民主的改革についてはもっと書いてほしい。これでは、中韓両国の読者に戦前の「大日本帝国」がいまだに存続しているとの印象を与えかねない(実際、そういう誤解を持っている人は多い)。

次に歴史書としての難点は、三国共同執筆ゆえに、記述に統一一貫性がないことである。中国史部分は中国の、韓国史部分は韓国、日本史部分は日本の見解というように、各国の見解が色濃く反映され、読んでいてちぐはぐな印象を受ける。

三国それぞれの「歴史認識」を完全に統一するのはもとより不可能であるし、非現実的であるが、次回作では、記述面での「すり合わせ」をもっと念入りに行ってほしい。

これでは、「歴史書」ではなく、単なる「資料集」である。

以上、自分としては、本書は『新しい歴史教科書』とは別の意味で教科書には不向きであると思う。執筆者たちの意欲は伝わってくるのだが・・・・・・。

次回作に期待しましょう。

『未来を開く歴史―東アジア3国の近現代史』” に対して4件のコメントがあります。

  1. Belinda より:

    你好!『三国それぞれの「歴史認識」を完全に統一するのはもとより不可能であるし、非現実的であるが』まさしくこの通りです。時々思いますが、私たちはどういう心境で歴史と向き合えば良いのでしょうか?私は中国的の歴史認識するのは私は中国人だからです、もし私は日本人として生まれたならきっと日本的の認識をすると思います。ようするに「たまたま」ある国の国民に生まれたから、見方も教育により違うなってくる。自分になるべく「民族的な主観意識」を破いて歴史問題を見ようと言いつづであり。「可憐之人必有可惡之處」弱かった中国はもちろん悪いの訳があったし、100%人のせいにするのが適切ではありません。とは言えその弱さを狙って侵略する国々は絶対正しくないと思います。この本はもし単なる「資料集」であれば読まなくても良いね、平行線のままじゃ無意義であり。本当にテーマ見たく「未来を開く」の本を作って欲しいですね。

  2. より:

    糠漬けさんのコメントも素晴らしいですね。個人的にもこの本を読みたいですが、まだ入手してないし、最近時間がなくて読む暇はなさそう。100年経たないと、正直に言えないのはそもそも歴史そのものだと思います。自分が年を取ったら普通に言えるものは、青春期では絶対言えないこともあるでしょうと思います。歴史も現実と密接する部分があるこそ、自分の国なりの解釈をせざるを得ないようになってしまう。資料集であったほうがむしろ良かったかもしれないね、昔喧嘩していた3人がそれぞれ自分の見解を言い合って、お互いに相手の見解に対しての理解を深めれば、それで良いではないかと思います。

  3. 電羊齋 より:

    皆様すばらしいコメントありがとうございます。糠漬け様「資料集」というのはやや厳しい言い方だったかもしれません。三国の歴史家達は、できるだけ共通点を見つけようと努力はしているのですが、まだ依然としてちぐはぐな感じがするということです。確かにまだ「未来を開く」という段階ではないですね。ただ、ひとつの試みとしては面白いので、次回作に期待したいです。tiantiantiantiantian様あなたの言うとおり、まずは相手の見解を良く理解することが大事ですから、たとえ「資料集」であっても、それはそれで意義のある仕事と言えるかもしれません。最近は、お互いを良く知りもせず、感情的に相手国を罵る人が多いですから。ちなみに、私はこれまで靖国神社、人民英雄記念碑、東北烈士紀念館、918紀念館、抗日戦争紀念館、北京軍事博物館など多くの場所を訪れました。そして、自分が日本を愛しているように、あなた方中国人も国を愛していることを知りました。自分としては、日本や中国といった国家に関係なく、誇りのために戦った先輩達を尊重したいと思っていますし、死んでいった人たちへの哀悼を忘れないでいたいですね。そして、自国と相手国双方に敬意を表することの出来る人間でありたいと思っています。なんだかかなり「右翼」なコメントで申し訳ありません。

  4. 電羊齋 より:

    (追加)そして、近代中国の舐めてきた屈辱と痛みも理解する必要があると思います。>その弱さを狙って侵略する国々は絶対正しくない自分もそう思います。相手が「弱い」、「未開」、「遅れている」からといって、自国の植民地にするのはどうやっても正当化できませんからね。

コメントは受け付けていません。