2023年の読書メーター

2023年の読書メーター
読んだ本の数:39冊
読んだページ数:10134ページ
ナイス数:567ナイス

https://bookmeter.com/users/383213/summary/yearly

■アジア人物史 第8巻 アジアのかたちの完成
近世から近代のアジア史を人物伝でたどる。個人的に面白かったのは第一章で、近世琉球の人物群像を通じ、近世琉球王国の確立過程がわかりやすく語られている。日本の人物についてもアジア史的視点から述べられている。清朝については全盛期と末期が取り上げられている。オスマン帝国、インド、ベトナム、中央アジアの人物たちの伝記もわかりやすくまとまっている。また本書は文化史にも手厚く、特に日本と朝鮮でほぼ同時代に行われた朱子学の相対化と多彩な思想展開についての記述は興味深く読んだ。
読了日:01月14日 著者:
https://bookmeter.com/books/19626161

■残照
モンゴル帝国に仕えた漢人武将郭侃のユーラシア大陸東西での活躍を描いた小説。田中芳樹らしく面白い。ただ、現在では否定されている元の階級制が登場するなどモンゴル帝国像が古いのが気になるし、モンゴル帝国とモンゴル人の野蛮さ、無教養さをことさら強調している筆致はいただけなかった。他にも指摘されている方もおられるが、これは作者が近年の新しい研究状況を知らないというより、意図的にそうしているようにも思えた。
読了日:01月22日 著者:田中芳樹
https://bookmeter.com/books/20556720

■自伝板垣恵介自衛隊秘録~我が青春の習志野第一空挺団~ (少年チャンピオンコミックス)
板垣恵介氏の陸自第一空挺団時代を描いた自伝漫画。下ネタも含めて板垣節で赤裸々に描いてあり、面白く読めました(下ネタが苦手な方は読まない方がいいかも)。特に行軍のエピソードと初めての降下のエピソードはグイグイ読ませるものがあります。巻末の対談では、空挺団・陸自という社会の凄さとその一方でのマッチョイズム的な理不尽さも語られていて、陸自経験者として「わかるなあ」と思いました。ちなみに私は精鋭とはほど遠いただのダメ隊員でしたが(^0^;)
読了日:02月01日 著者:板垣恵介
https://bookmeter.com/books/20427987

■ライジングサンR(11) (アクションコミックス)
火山の噴火の描写は非常に迫力がある。日常が瞬時に崩壊する災害の恐ろしさがよくわかる。災害派遣の手順・手続についても説明されている。
読了日:02月04日 著者:藤原 さとし
https://bookmeter.com/books/20391094

■西太后に侍して 紫禁城の二年間 (講談社学術文庫)
西太后の人物像が生き生きと表現され、宮中の情景描写も非常に巧みで、「読ませる」内容。その反面、話を盛っていると思われる箇所もあり、鵜呑みにはできない。また、特に興味深く感じたのは徳齢のアイデンティティのありようで、彼女の中には外国育ちの帰国子女・旗人・中国人という複数のアイデンティティが同居しているように見えた。そして、本書の中で西太后と著者徳齢は、矛盾に満ちた複雑な言動を見せているが、それは彼女らと中国人だけでなく、我々自身を含むあらゆる人間に当てはまるもののように思えた。
読了日:02月25日 著者:徳齢
https://bookmeter.com/books/20582766

■天幕のジャードゥーガル 2 (2) (ボニータ・コミックス)
チンギス・カン死後、さまざまな思惑が絡み合う。モンゴルの結束を守ろうとする者、モンゴルに復讐しようとする者。シタラはどうする、どうなる?そしていよいよ金国攻め。目が離せない。
読了日:02月25日 著者:トマトスープ
https://bookmeter.com/books/20514119

■天上恋歌 ~金の皇女と火の薬師~ 7 (7) (ボニータコミックス)
個人的には、金の皇帝が康王を認めるシーンが好き。そして本巻は何と言っても二兄オリブが大活躍。ウドゥもキャラが立っている。宋軍を率いる童大尉の失敗とその後のあつかましさもなかなか……。服飾、甲冑、習俗、ゲルなどの描き込みもすごい。
読了日:03月18日 著者:青木朋
https://bookmeter.com/books/20619012

■341戦闘団 (1) (ゲッサン少年サンデーコミックス)
いきなり戦場の混乱に投げ込まれる主人公。俯瞰的な視点を排し、地べたを這いつくばる視点から戦闘を描いており、読んでいるこちらも混乱する戦場の中を引きずり回される気持ちになった。最前線で戦っている者は「神の視点」で上から戦場を見渡すことはできず、常に混乱の中にいるということなのだろう。傑作の予感がする。
読了日:03月18日 著者:広江 礼威
https://bookmeter.com/books/20679895

■ダライ・ラマ六世恋愛詩集 (岩波文庫 赤69-1)
ダライ・ラマ六世の(あるいは彼のものと伝わる)恋愛詩の詩集。艶っぽい詩もあれば、悩みやせつなさが表現された詩もある。和訳は流麗な七五調で読みやすい。解説も非常に充実しており、時代背景、ダライ・ラマ六世の生い立ちと数奇な生涯、彼の恋愛詩とその特徴、現代チベット詩などについて触れられている。いいものを読ませていただきました。
読了日:03月20日 著者:
https://bookmeter.com/books/20843563

■唐―東ユーラシアの大帝国 (中公新書 2742)
新しい見解を盛り込み、かつ唐代史の要点を手堅く押さえた好著。また従来の中国王朝史の枠にとどまらない広い範囲を取り扱いつつ、中国本土(China Proper)の農耕世界視点と東ユーラシアの遊牧世界視点のどちらにも偏ることのないバランスも評価できる。ソグド、突厥、チベット、契丹、ウイグルなど非漢人諸勢力の唐内外での動向、非漢人勢力の人的移動とその歴史的役割が最新の研究に基づきダイナミックに描写されている。個人的には、ソグド人の隋唐革命、玄武門の変での役割、非漢人勢力の独立運動としての安史の乱が興味深かった。
読了日:03月26日 著者:森部 豊
https://bookmeter.com/books/20771422

■文藝春秋2023年5月特大号
特集「私の人生を決めた本」目当てで購入。各界の著名人が「私の人生を決めた本」について寄稿しており、各人各様の個性が強く出ていて面白かった。
読了日:05月02日 著者:
https://bookmeter.com/books/21153869

■貴族とは何か: ノブレス・オブリージュの光と影 (新潮選書)
古代ギリシャ・ローマ、中国の貴族について概観し、「徳」を重んじる点を共通点として挙げているところは東洋史を学んでいる者として大いに頷けた。また、西欧特にイギリスの近世から近現代にかけての貴族の移り変わりを丁寧にたどり、イギリスにのみ「貴族院」が残った理由として、時代に合わせて自己変革する貴族の柔軟さと現実主義を取り上げており蒙が啓かれた。最後に著者は、大衆が精神的貴族となるべきと説いている。我々は果たして、徳を身につけ、大所高所からの視点に立つ(理想的な意味での)貴族となれるのだろうかと考えさせられた。
読了日:05月13日 著者:君塚 直隆
https://bookmeter.com/books/20500622

■中華を生んだ遊牧民 鮮卑拓跋の歴史 (講談社選書メチエ 785)
鮮卑・拓跋部の歴史を概説。拓跋部の起源に関する近年の研究も取り上げ、拓跋部が元来「鮮卑」であったかについて再検討している。また代国、北魏の諸改革、漢化政策については、枠組みとしては中華王朝の制度を導入しつつ、実態としては遊牧社会のルールを少なからず残していることを指摘している。全体的感想としては、中華文明の破壊か、中華文明への同化かという二者択一的な議論、または中国本土(China Proper)の農耕世界視点と東ユーラシアの遊牧世界視点のどちらにも偏ることなく、胡漢の融合をバランス良く描けていると思う。
読了日:05月25日 著者:松下 憲一
https://bookmeter.com/books/21055385

■関東軍――満洲支配への独走と崩壊 (中公新書 2754)
関東軍について、独断専行が奨励される陸軍の制度的環境、関東軍軍人の個人的特性、満洲(中国東北部)現地勢力の存在の三つの視点から光を当てている。印象的だったのは、関東軍(陸軍)の組織統制が軍人の個人的特性、派閥、人間関係といった属人的要素により大きく左右されていたこと。「下剋上」を追認するボトムアップ的慣行も含めて、現代日本の組織とも地続きだと感じた。そして、特に張作霖を初めとする満洲現地勢力の動向、満洲国軍、現地の状況について丁寧に記述されている点が良かった。これも関東軍について考える上で不可欠な要素。
読了日:05月28日 著者:及川 琢英
https://bookmeter.com/books/21173163

■中国人が日本を買う理由 (日経プレミアシリーズ)
中国人富裕層の日本移住、日本の不動産購入、さらには日本観を糸口にした中国論そして日本論でもある。本書を読むと、中国は急速に発展している反面、安心感・安定感に欠けている部分があり、「日本を買う」中国人たちはその点で日本を高く評価していることがわかる。そして、本書後半でも問題提起されているように、我々として、そうした高く評価されている点をいかに維持していくかが今後問われていくだろう。
読了日:05月28日 著者:中島恵
https://bookmeter.com/books/20983955

■無能の鷹(6) (KC Kiss)
特にバーチャルヒューマンの話と謝罪の話が面白い。本人は無能なんだけど、なんやかんやで不思議と上手く解決してしまうのが楽しい。能なき鷹で爪を隠さない。だがそれゆえに何かしらの化学反応が起きてしまう描写が巧み。
読了日:06月01日 著者:はんざき 朝未
https://bookmeter.com/books/21142840

■国境のエミーリャ (8) (ゲッサン少年サンデーコミックススペシャル)
どの話も面白かった。特にハラダの弟とウラゾフの話が良かった。青函連絡船が双胴船になってたのは「あの頃の未来」感がして面白かった。
読了日:06月08日 著者:池田 邦彦,津久田 重吾
https://bookmeter.com/books/20548159

■国境のエミーリャ (9) (ゲッサン少年サンデーコミックススペシャル)
中華料理と中ソ対立が絡んだエピソードが面白い。この世界線にも中ソ対立は存在するらしい。しかし、中華料理店の店名が「五十番」とは(わかる人にはわかる)。高速鉄道エピソードも良かった。あと、管理官はちょっとヤバいぞw
読了日:06月18日 著者:池田 邦彦,津久田 重吾
https://bookmeter.com/books/21236311

■台所から北京が見える ――36歳から始めた私の中国語 (ちくま文庫 な-59-1)
自分も中国語を仕事にしているので読んでいて頷ける点が多かった。特に朗読練習の大事さについてはその通りだと思う。時代は変わっても、語学学習の基本は変わらないのだろう。70~80年代の中国についての記述も非常に興味深かった。それにしてもいろいろな物事にチャレンジし、それを成し遂げていく計画性と行動力とバイタリティには敬服せざるを得なかった。そしてなにより、何かを始めるのに「遅すぎる」ということはないということがわかった。とかく言い訳を探しがちな自分に大いに恥じ入った次第。やはり名著。
読了日:07月08日 著者:長澤 信子
https://bookmeter.com/books/21129222

■歴史・戦史・現代史 実証主義に依拠して (角川新書)
堅実な内容で、しかも読みやすい文章。実証主義に依拠した歴史への向き合い方が語られている。特に印象的だったのは旧軍・自衛隊に通底する「教訓戦史」の問題点への指摘。すなわち戦史から自らにできる規定の方針を補強する実例を戦史から探し、そこから、己のドクトリン、戦略・作戦・戦術を肯定する論理を導くというもの。これは歴史に接する一般人も陥りがちな落とし穴だと思った。歴史から自分にとって都合のいい例を探し出して自説の正当化に用いることは、著者も本書で繰り返し批判しているし、社会においてもいくらでも見られる話。
読了日:07月22日 著者:大木 毅
https://bookmeter.com/books/21328957

■ライジングサンR(12) (アクションコミックス)
災害派遣から見る自衛隊。いろいろな制約と手続、組織の論理と現場の思い、国内外の動き、マスコミ報道などいろいろ考えさせられる内容。自分がいた頃に見聞きした話と変わってるところ、変わっていないところがいろいろありますね。
読了日:07月27日 著者:藤原 さとし
https://bookmeter.com/books/21097774

■スモークブルーの雨のち晴れ 1 (フルールコミックス)
私も久慈さんと同業者の在宅翻訳者です。BLコミックは初めて読みました……。翻訳という仕事についてけっこう深いことも描かれてますね。「翻訳小言」は参考になります。久慈さんのお父さんは正しい!やっぱり調べ物は大事!
読了日:07月27日 著者:波真田かもめ
https://bookmeter.com/books/19731691

■スモークブルーの雨のち晴れ 2 (フルールコミックス)
『レックスのだいぼうけん』の話が素敵。翻訳とはすばらしいものだと改めて思った。二人の関係と二人の人生が少しずつ前へと進んでいる感じがする。久慈父の「翻訳小言」も参考になる。確かに日本語って一人称代名詞を英語ほどには使わない(人称代名詞全体に言えるかも)。
読了日:07月27日 著者:波真田かもめ
https://bookmeter.com/books/20339810

■スモークブルーの雨のち晴れ 3 (フルールコミックス)
久慈家の話がメイン。やはり思い出が詰まった家がなくなるのはさびしい。翻訳学校に通い始め、日本語を磨くため文学作品も読み始めた朔太郎。そして翻訳学校で出会った原さんもよいキャラだと思う。自分も翻訳の勉強を始めたのは遅い方なので、朔太郎と原さんには共感。職業物としてよくできていると思う。
読了日:07月27日 著者:波真田かもめ
https://bookmeter.com/books/21345429

■検証 ナチスは「良いこと」もしたのか? (岩波ブックレット 1080)
ナチスの「良いこと」とされがちな政策について検証し、わかりやすく解説している。第一にナチスのオリジナルといえる政策はなく、それらはナチスにより「功績」として誇大に宣伝されたものであること。第二にそれらは戦争のための「民族共同体」構築という目的によるものであり、またそれはユダヤ人、政治的敵対者、障害者や「反社会的分子」の排除と表裏一体であったこと。第三に「良いこと」とされている政策も結局約束倒れで、ナチスが喧伝するような大きな成果は上がっていないこと。ナチスの政策を一覧する概説書としてよくまとまっている。
読了日:09月03日 著者:小野寺 拓也,田野 大輔
https://bookmeter.com/books/21384753

■光武帝: 「漢委奴国王」印を授けた漢王朝の復興者 (世界史リブレット人 013)
「古典国制」と「讖緯思想」を軸に読み解く光武帝劉秀の政治と人間像。本書では、光武帝には、古典国制と讖緯思想においては王莽との共通点が多かったことが指摘されている。そして、讖緯思想の影響力から逃れることができず、それらを逆に積極的に活用して自らの政治的正当性を高めようとした点で光武帝も「時代の子」であったとする。個人的に興味深かったのは豪族対策で、光武帝は豪族出身ではあったが、少なくとも彼の治世においては豪族の放埒な振る舞いを抑えていたという。光武帝とその時代について広く解説しつつ、よくまとまっている。
読了日:09月04日 著者:小嶋 茂稔
https://bookmeter.com/books/21384325

■嫌われた監督 落合博満は中日をどう変えたのか
「あらゆるものへのアンチテーゼのようなその存在が、世の中の欺瞞や不合理を照らし出してしまう」落合。合理性とプロフェッショナリズムに徹し、「勝つことが最大のファンサービス」と唱える落合が選手たちや周囲を変えていく。落合と選手、コーチ、関係者たちの群像劇であると同時に、記者として落合という存在と格闘し続けた著者の成長物語としても読めた。自分もこれまで生きてきて、時には「欺瞞や不合理」に折り合いを付けざるを得ないことがあり、落合の生き方にはまぶしさを感じるが、同時にそれが孤独でつらい道であることも感じ取れた。
読了日:09月18日 著者:鈴木 忠平
https://bookmeter.com/books/18580279

■天幕のジャードゥーガル 3 (3) (ボニータ・コミックス)
ボラクチンがしたたか。トルイの描き方、『原論』がファーティマのもとに返るあたりの描写が面白い。モンゴル帝国の政治力学もしっかり描かれている。あと、私は金国(女真人)の後身であり、モンゴル人と文化的に近い満洲人・清朝の歴史を専攻していたので、宮廷内の様子とシャーマンの描写に引きつけられた。
読了日:09月27日 著者:トマトスープ
https://bookmeter.com/books/21440260

■JK漱石 1 (BRIDGE COMICS)
夏目漱石が現代に転生して女子高生に!中身は明治の男性で、外見が現代の女子高生というギャップが引き起こすおかしみが面白い。また漱石先生と漱石ファンの潮君の対話が楽しい。互いに面倒くさい性格なところが読んでて楽しい。作者の解説も良い。
読了日:09月30日 著者:香日ゆら
https://bookmeter.com/books/20404317

■ウは宇宙ヤバイのウ!〔新版〕 (ハヤカワ文庫JA)
ドタバタでハチャメチャでごった煮で百合なSF。隕石!暗殺者!妹!異星人の艦隊!熊!馬!百合!そして訳のわからん武器!地球危うし!超展開なんだがちゃんと物語として成立している。あとやっぱり非数値无香(ひすうちぬるか)を初めとする登場人物の名前が面白かった。続編も是非読みたい。
読了日:10月01日 著者:宮澤 伊織
https://bookmeter.com/books/21465403

■スターリングラードの凶賊 1 (楽園コミックス)
スターリングラード戦+ピカレスクなウエスタンであり、戦争下の民衆、使い捨てにされる将兵の命などなど戦争の理不尽さも描いている。生と死がドライに描かれているのが一種独特の味わい(旧ソ連の戦争映画にも似た雰囲気)。謎めいた主人公は一体何者か?
読了日:10月05日 著者:速水 螺旋人
https://bookmeter.com/books/21499128

■隋―「流星王朝」の光芒 (中公新書 2769)
隋が漢以来の「古典国制」を受け継ぎつつ、北方草原世界、華北中心の中華世界、海域に連なる江南世界を多元的に支配し、君主としては皇帝、可汗、菩薩天子という複数の顔を持っていたこと、またそうした性格がその後の王朝にも受け継がれていったことも指摘されている。モンゴルの「ケシク」に類似する側近政治、また隋の皇室と隋王朝自体も遊牧世界の気風を受け継ぎ、鮮卑、突厥、漢のハイブリッドと言える存在であったことも描き出す。独孤伽羅、和蕃公主ら女性の役割にも注目している。隋の持つ多様な側面に大いに興味を引かれた。
読了日:10月07日 著者:平田 陽一郎
https://bookmeter.com/books/21509970

■蒸気駆動の男: 朝鮮王朝スチームパンク年代記 (新☆ハヤカワ・SF・シリーズ 5060)
蒸気機関が発達し、「汽機人」と呼ばれる蒸気で動くアンドロイドが生まれている朝鮮王朝という設定の歴史改変SFオムニバス。所収作品に共通して登場する謎の男「都老」の存在が面白い。ちなみに「都老」という人物名自体は朝鮮王朝の歴代の記録である『朝鮮王朝実録』に本当に登場しており、検索してみると面白いかも。個人的に特に面白かったのは「知申事の蒸気」で、朱子学を身につけた汽機人が朱子学と現実との間で葛藤する様子が人間以上に人間らしい。そしてその中で汽機人に本来あるはずのない感情が芽生えていく描写が巧み。
読了日:10月28日 著者:キム・イファン,パク・エジン,パク・ハル,イ・ソヨン,チョン・ミョンソプ
https://bookmeter.com/books/21187402

■柴田勝家-織田軍の「総司令官」 (中公新書 2758)
柴田勝家の評伝。勝家が「敗者」であることから、良質な史料が少ない中でも、手堅い記述に努めている。勝家という人物が、織田家随一の「猛将」でありつつ、行政面でも優秀であり、東北の大名との外交もこなしていたことが述べられている。配下の与力衆の力が強く彼らを掌握しきれなかったこと、家中の不和、北陸という雪国にいたことなどが本能寺の変後の主導権争いで秀吉に敗れた要因であったことも示されている。そして、織田家の「忠臣」であったことが秀吉との差であり、勝家の限界であったとする。わかりやすく読めた。
読了日:10月29日 著者:和田 裕弘
https://bookmeter.com/books/21285325

■戦狼中国の対日工作 (文春新書 1436)
著者も指摘しているが、「戦狼外交」や「対日工作」は金と力と人海戦術で正面突撃し、実行者たちはどこまでも自分たちの内向きの論理で行動し、横の連携をせず、北京を向いて仕事をし、自分が他人からどう見えるかという視点に欠けている。本書を読み、これらは王朝時代以来の中国官民の行動パターンと心理そのままで、要は中国政府・党は今まで国内でやってきたことを海外でやっているに過ぎないのではないかと思えた。それゆえに硬直的で強硬、またそれゆえに脆弱で危なっかしい。世間で流布される「したたかな中国」とは異なる実情がわかる本。
読了日:12月15日 著者:安田 峰俊
https://bookmeter.com/books/21686750

■北京の歴史 ――「中華世界」に選ばれた都城の歩み (筑摩選書 263)
農耕文化と遊牧文化との境界、そして拡大した「中華世界」の中心点に位置する北京の歴史を綴る。近年の考古学的成果もよく盛り込まれている。契丹、女真、モンゴル、満洲など北方の動きが北京の歴史の画期となってきたことに注目しており、面白く読めた。特に金の中都の建都を北京の歴史の大きな画期として位置づけ、詳述しているところは興味深く読めた。また、著者の専門分野でもある明清北京城に関しても豊富な史料が引かれ、読み応えがあった。
読了日:12月15日 著者:新宮 学
https://bookmeter.com/books/21510323

■パッキパキ北京
とにかくたくましくて図太い菖蒲(あやめ)さんが北京を行く。自分としては菖蒲さんの性格にはちょっとついていけないかな(苦笑)。ただ、菖蒲さんもその危うさに気がついているような節もあった。「精神勝利法」への視点は少し面白く感じる。北京の街と人々への観察が細かく、かつ生き生きしていて面白く、中国で暮らした者としてはうなずける描写が多かった。
読了日:12月26日 著者:綿矢 りさ
https://bookmeter.com/books/21643245

■物語 チベットの歴史-天空の仏教国の1400年 (中公新書 2748)
内容的にはダライ・ラマ政権成立以後が中心。近現代のチベット史についての記述がかなり充実している。チベット高原にとどまらないユーラシア規模でのチベット仏教世界の大きな広がり、近現代での欧米でのチベットイメージの展開についても触れられており、興味深く読めた。また、個人的には、転生制度の合理的な一面についての解説、清朝とチベットとの関係についての記述を面白く読んだ。大国同士のパワーバランスに翻弄されながらも、自らの文化を受け継ごうとするチベットとチベット仏教世界について考えさせられた。
読了日:12月30日 著者:石濱 裕美子
https://bookmeter.com/books/20961132

■国境のエミーリャ (10) (ゲッサン少年サンデーコミックス)
コーラの話はペ○シコーラがモデルだろうか。お酒の話は確かに西も東も「官僚主義」だよねえと思わされる。潜水艦の話、歌手と麻薬がらみの話も良かった。それにしても「昼食は売り切れ!」がますますアクロバティックになっていく(笑)
読了日:12月31日 著者:池田 邦彦,津久田 重吾
https://bookmeter.com/books/21676709

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