「愛国」雑感
日本の「愛国者」には、「愛国心」はあっても、同胞への愛が欠けている者が多い。
(もっとも、他国の「愛国者」もまた、その傾向から無縁ではない。古今東西、いくらでも例がある。人間とはこれほどまでに歴史に学ばない生き物であるのだが……)
巷にあふれる「愛国者」の持つ「愛国心」は、所詮、自己愛の変種に過ぎない。「自分は国を愛し、国に尽くしている。だから自分は正しい。ゆえに、自分に逆らう者は『反日』だ」──知らぬ間に、そんな思考に染まっていく。自らのちっぽけな立場を守ることこそ「愛国」だと思い込んでいる。
「愛国心」と自己愛が混同され、当人はそのことに気づかない。あるいは、気づいても見て見ぬふりをしている。そこには、他の同胞への思いやりなど、芽生える余地もない。
この話になると、アガサ・クリスティの『愛国殺人』に登場する犯人をどうしても思い出してしまう。