中国マスコミ・ネット言論への雑感
これまで中国マスコミ・ネット言論での日本関連報道・記事を見てきた感想。これはあくまで自分の主観的な感想なので、事実とは異なる点も多いかもしれない。その点はご容赦の程を。政治や時事問題については書かないと書いたが、国慶節限定で復活。
中国マスコミ・ネット言論での日本関連報道・記事を見ると、日本に対する賞賛と批判が両極端。日本を賞賛する場合は日本をまるで天国、日本人を天使のように持ち上げる一方、日本を批判する場合は日本を地獄、日本人を悪魔のように描く。どちらにせよ、彼らにとっての「日本」は現実の日本ではない。日本や日本人につき、見たまま聞いたままを客観的に紹介している報道・記事も多いが、比率として依然少数派といったところ。
なぜそうなるのか?その理由としては言論統制やナショナリズムがよく取り上げられるが、それだけではないと思う。
中国マスコミ・ネット言論での日本関連報道・記事をよく読んでみると、あることに気がつく。
まず、日本への賞賛的報道は「日本はこんなにもすばらしい!我が国は遅れている!我が国も見習うべきだ!」という文脈がほとんど。これはここ数ヶ月の「なでしこジャパン」に対する中国マスコミの報道が最もわかりやすい例。「なでしこジャパン」の実績をたたえつつ、自国サッカーの現状を痛烈に批判している。その他、人権、社会福祉、高速鉄道、社会インフラなどに関する報道やネット言論でこうした論調が多々見られる。
一方、日本への批判的報道は「日本はこんなにもけしからん!我が国は素晴らしい国!我が国はもっと強くなるべき!」という文脈がほとんど。これは領土問題とか歴史問題、または政府・共産党を賞賛する報道に多々見られる。一番わかり易いのは中国の対外強硬派の根城である『環球時報』。
要は日本賞賛派は自国の現状への不満及び異議を主張する論拠として日本を持ち出し、批判派も同様に自国の現状への不満及び異議を主張する論拠として日本を持ち出しているに過ぎない。
そのため、自分の主張を補強しようとすればするほど、論拠としての日本を過剰なまでに賞賛し、または批判する。論拠としての「日本」像が事実がどうかはこの際重要ではない。論拠の印象が強烈であればあるほど、自分の主張をくっきりと引き立たせることができる。
従って、中国マスコミ・ネット言論での日本関連報道・記事は往々にして抽象的・観念的で極端な内容になりがちだ。
例えば、中国人の道徳心が低いと主張したい場合、一部の事例や抽象的概念のみを根拠に「日本人の道徳心はこんなにもすばらしい。中国人はまだまだ。中国人も見習え!」と主張する。同様に、中国人の道徳心を褒めたたえたい場合も一部の事例や抽象的概念のみを根拠に「日本人は人間のクズだ。中華文明を持つ中国人はこんなにもすばらしい。悪い日本に負けないよう強くなれ!」といったような観念的で極端な書き方をする。
結局のところ、中国マスコミ・ネット言論は自国政府や自国人との論争の論拠として日本を利用している面が強い。要は「指桑罵槐」というやつで、自国政府や論争相手を直接批判するのは差し障りがあるので、日本というクッションを置いて間接的に批判しているのだ。「日本」という存在は現実の存在ではなく、単に相手を言い負かすためのダシでしかない。
誤解を恐れずに言えば、いわゆる「親日、知日」と「反日」はつまるところ日本をダシにした中国内部の争いという性格が強い。中国流にいえば「人民内部矛盾」。従って、日本人はいちいち一喜一憂する必要はなく、中国の「人民内部矛盾」をあくまで冷静に見守っていればいい。
このように、中国マスコミ・ネット言論での日本関連報道・記事が両極端になりがちなのは、よく取り上げられる言論統制やナショナリズムだけでなく、自国内の論争によるバイアスも大きい。
日本への賞賛であれ、批判であれ、どちらも自らの主張を補強するための都合の良い論拠・ダシにすぎない。そのため、日本関連報道・記事は往々にして抽象的・観念的な極端な内容になりがちで、現実の日本とは縁遠いものとなっている。
以下、自分の個人的ボヤキ。
中国で生活を始めてもう7年半、褒め殺しにも罵詈雑言にもうんざりした。
中国マスコミ・ネット言論の大多数はどのみち現実の日本には興味がなく、自分たちの脳内にしか存在しない「日本 Riben」を弄んでいるだけ。現実の日本に興味がない以上、日本人の私がいちいちアドバイスしたり、批判してやる義理はない。日本を褒めようがけなそうが勝手にしろ!というのが自分の正直な心境。
これは、自分が在中日本人でありながら、本ブログやその他ネット上で日中関係について発言することが少ない理由でもある。
いちいち日中関係について書いたり、ニュースの感想を書いた所で、今の自分になにか特別な影響力があるわけではない。書くだけムダ。現実でもネットでも、日中関係の仕事をする気力も能力もない。有名な加藤嘉一氏のようになる気持ちなど全くない。
ただ、現実とネット上とを問わず、普段接する中国人一人一人には誠意をもって本音で接したいと思う。
例え話をするなら、日中関係という砂漠を緑化するだけの水はないが、砂漠を渡ってきた中国人に自分の水を少し分け与えるぐらいのことはするということ。
以上、これが自分のスタンス。過去もそうしてきたし、これからもそうする。
“中国マスコミ・ネット言論への雑感” に対して8件のコメントがあります。
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関東も涼しくなりました。大学も平常日程が始まり、東奔西走の毎日です。この間は大阪に講演を頼まれて出かけてきました。ATC(コスモスクエアの一つ先)を会場としておりましたので、港湾設備を俯瞰することができました。大阪府、大阪市の肝いりで整備された港湾界隈ですが、建物には余裕があるといった状況です。学術発表とは異なって、異業種の話をいろいろ伺うことができ充実した大阪滞在(日帰り)でした。また大阪と御縁があれば引き続き伺おうと思っております。
こちら大連もここ一週間で一気に秋めいて来ました。
長袖がなければ肌寒いぐらいです。
故郷大阪の不景気ぶりを見るとため息が出ます。
異国の地から我が大阪の奮闘を祈っています。
こんにちわ。ブログ記事を読ませていただきました。
ちなみに、中国人です。
電羊齋さんの論点には同意しています。
別な話ですが、自分も長く日本のマスコミやネットを見てきていました。
「中国マスコミ・ネット言論の大多数はどのみち現実の日本には興味がなく、自分たちの脳内にしか存在しない「日本 Riben」を弄んでいるだけ。」という感想は、自分が今の日本に対する思いとはまったく同じです。
お互いアジアの国なのに、相手のことはともかく、自分のことにもよくわかっていないと思います。
もっと理解し合えばいいのにと、いつも思ってます。
失礼いたしました。
わんこ様
初めまして。
心のこもったコメントを頂き誠にありがとうございます。
日本語が本当にお上手ですね。
>「中国マスコミ・ネット言論の大多数はどのみち現実の日本には興味がなく、自分たちの脳内にしか存在しない「日本 Riben」を弄んでいるだけ。」という感想は、自分が今の日本に対する思いとはまったく同じです。
>お互いアジアの国なのに、相手のことはともかく、自分のことにもよくわかっていないと思います。
同感です。日本のマスコミ・ネット言論でもまだまだそうした報道・記事が多く、私も在中日本人の一人として常々歯がゆい思いをしております。先入観や既成観念のみにとらわれて、現実の中国が見えていないのでしょう。ただ、その背景にある事情は中国国内の日本関連報道・記事とは大いに異なる気がします。その辺はじっくり考えてみたい問題です。
また、お互いアジアの国なのに相手のことはともかく、自分のこともよくわかっていないというのも、本当におっしゃる通りだと思います。
日本の中国学者である竹内実は、早くも1980年に『友好は易く、理解は難し』と題する著書を出版し、日中両国の相互理解の難しさを指摘していました。まさにその通りで、友好を唱えるのは易しいですが、相互理解は本当に難しく、30年経った今もなお日中両国の相互理解は不十分です。自分も7年前に中国で生活を始めて以来、両国の相互理解の不十分さを常々痛感させられています。
中国に暮らす者として、両国の相互理解の増進を切に願っております。
今後ともよろしくお願いいたします。
もりはるです。最近FBを変えた。
>中国マスコミ・ネット言論の大多数はどのみち現実の日本には興味がなく、自分たちの脳内にしか存在しない「日本 Riben」を弄んでいるだけ。
最近地元の「命名日本」という本を読んだ。作者さんも「地元の事、例えば、港女問題と批判したら批判が起こりやすいが、日本と比較したら大丈夫ですから、人たちがダイレクトに批判しない」と言います(香港人は結構保守そうだ)。
私のほうが
「日本人がすばらしい。何か習え。」
「どうして日本人がそうするの?面白いね。」
「日本人を侵略した。やはりこれは無理でしょう?ちゃんと話し、了解したい。」
から、日本に関する文を読みます。
>日本の中国学者である竹内実は、早くも1980年に『友好は易く、理解は難し』と題する著書を出版し、日中両国の相互理解の難しさを指摘していました。
理解して繋がることは本当に難しい。
FBにちょっと若い友がある(同人サークルの友の日本人の友、オタクです)。あの人は、右翼ってそうで、いつも中国とか韓国とか嫌い言葉を話しばかりが、私のコメントを「いい」して悪意のないそうな言葉で話す。全然分からない >.<
>日本への賞賛であれ、批判であれ、どちらも自らの主張を補強するための都合の良い論拠・ダシにすぎない。そのため、日本関連報道・記事は往々にして抽象的・観念的な極端な内容になりがちで、現実の日本とは縁遠いものとなっている。
BBSにもっと見るのはどうですか?
もりはるさんコメントありがとうございます。
>最近地元の「命名日本」という本を読んだ。作者さんも「地元の事、例えば、港女問題と批判したら批判が起こりやすいが、日本と比較したら大丈夫ですから、人たちがダイレクトに批判しない」と言います
香港でもそうなんですねえ。嗚呼。
もりはるさんの日本理解への意欲には平素から常々敬服しています。
日本や日本文化についてわからないことがあれば、今後も私にどんどん聞いて下さい。
>FBにちょっと若い友がある(同人サークルの友の日本人の友、オタクです)。あの人は、右翼ってそうで、いつも中国とか韓国とか嫌い言葉を話しばかりが、私のコメントを「いい」して悪意のないそうな言葉で話す。全然分からない >.<
うーん。そういう人も確かにいますね。
ただ、日本人の場合、中国や韓国という国は嫌いでも、中国文化や韓国文化が好きな人は大勢います。その人は、中国のことが嫌いでも、中国人や中国文化に興味のある人なのかもしれません。
日本人にも中国人にもいろいろなタイプの人間がいますし、お互いの国の文化も価値観も異なっているので、相互理解には時間がかかると思います。
>BBSにもっと見るのはどうですか?
見たところ、BBSでも同じような感じです。BBSの書き込みの中には、日本通の人による客観的書き込みも見られますが、比率から言えば依然少数ですね。
自分の見方もあるいは間違っている可能性はあるかもしれませんし、視野がまだまだ狭いかもしれません。これからも中国についていろいろ勉強していきたいと思います。
私も少し論述したいのですが、
最近臺灣の人間が必ずしも親日的ではない。分かり合えないものを持っていると
思って居ます。
臺灣人が口癖見たく言う「日本人の閉鎖性・均質性・孤独性」という言葉を聞いていると
一部の日本人が都合よく臺灣を解釈するのとは違う、見たくはない真実のような
物を感じて有る意味心地いい物を感じています。
どえむみたいですが、
臺灣を過度に賞賛しても真実は見えてこないし、韓国を攻撃しても真実を見てこないと
思って居ます。
有る意味ビジネスで韓国の方が日本相手の物はうまくいっている感じがします。
臺灣は前述の「日本人の閉鎖性・均質性・孤独性」という物を強く感じたみたいなものが邪魔しているのかもしれなくうまくいかないのです。
一部の日本人は日台関係は政治に起因していると言いますが、それ以外もあるような
気がします。
しれません
自分はずっと大陸に入り浸っていますので、その問題に関してはよくわかりません。
あと、差し出がましいことを言うようで申し訳ありませんが、ここで記事と直接関係ない長文の論述コメントを書かれるよりは、ご自分のブログ、ホームページ等で主張されてはいかがでしょうか。
いつも気になっているのですが、あなたのコメントは記事内容と直接関係のない長文の論述が多く、しかもここ2、3年ずっと千篇一律のような同じ内容(アジアオタク批判、台湾批判、西洋崇拝批判)ばかり。地震の時もそうでしたし、はてなハイク他あちこちでそういうエントリを連投されてますね。こちらとしてはコメンド返しに困ります。どんなコメントを読んでも、「はい、それで?」としか言えません。もはやコメント返しのネタも尽きました。
それから、物書きを称する割には文章が「内輪」向けで説明不足ですね。内輪では通じるのかもしれませんが、そのノリでネット全体に向けて書いても読みにくいだけです。
自分の千篇一律な主張をただ一方的に述べるだけでは誰も相手にしてくれませんよ。
ご自分の主張を聞いてほしいのでしたら、相手が対話に参加しやすい話題を取り上げたり、これまでよりも幅広い話題を盛り込んだりしたほうがいいでしょう。また、相手の主張に耳を傾けつつ、それをやんわりと否定して自説を述べるという技も覚えられたほうがいいと思います。
以上、いつもコメントを頂いているtomohiro様にこうしたことを申し上げるのは誠に心苦しいのですが、あえて苦言を呈させていただきました。