横山宏章『中華民国――賢人支配の善政主義』

横山宏章『中華民国――賢人支配の善政主義』中公新書1394、1997年
   最近読んだ本。
 民国時代、孫文と中国国民党を貫いていたのは徳と能力を兼ね備えた「賢人」が政治能力のない愚かな人民を導くという思想であり、著者はこれを「賢人支配の善政主義」と呼んでいる。この思想は中国で古くから受け継がれてきたものだった。
 孫文は中国人民に対し抜きがたい不信感、愚民観をもち、議会制民主主義には非常に否定的だった。本書に書かれていることを要約すると、彼の思想は先覚者たる自分とその忠実な前衛党たる国民党が愚かな人民に代わって政治を行い、中国の統一と発展を実現し、人民の資質が向上したのちはじめて人民に主権を返還するというものだった。
 その後、「民主と憲政」を求める声と「賢人支配の善政主義」とのせめぎ合い、さらには軍閥割拠、共産党や労働運動の発展、日本の侵略とその後の内戦などをへて、民国は複雑な歴史をたどっていく。
 そしてこの「賢人支配の善政主義」は形を変えて現在の共産党政権にも受け継がれている。
 著者の意見は、やや単純に割り切りすぎという気もするがおおむね同感。

自分もこれまで多くの中国人に「中国も民主化して議会制民主主義にしたら」という疑問をぶつけてきたが、上は共産党員、エリートから下は一般庶民までほとんどの人がみんな異口同音に「人民に好き勝手させたら何をするかわからん!」っていうしねえ。
 中国人が議会制民主主義に向いているのかどうか、現在のところ自分には判らない。
だが、中国で3年暮らしてきた感覚からいえば、この国は結局すべて「中国特色」、
つまり中国式で行くしかないのではと思う。
 民主主義にしてもやはり「中国特色」で少しずつ進んでいくしかないのだろう。