「言った者勝ち」?――高市氏の言動を見ていて思うこと

ここ一か月ぐらい高市早苗首相(とその閣僚などなど)の言動を見ていて思うけど、内政にしても外交にしても、本当に言葉が軽いなあと思う。
奈良公園のシカにせよ、「ワークライフバランスを捨てる」だの、「存立危機事態」だのと……次から次へと失言が飛び出す。
やっぱり高市氏には政治的センス、もっと言うなら「コモン=センス common sense」がないんだろうなと思う。
SNS的な「言った者勝ち」が通用するのはSNSの狭い高市ファンの中だけ。
「言うべき事を言う」のは大事だが、それ以上に「言うべき事でないことは言うべきではない」のも大事。

例えば、例の「存立危機事態」発言だが、まずもって「戦艦」などという古めかしい用語を使っていること自体、軍事や安全保障についてろくに勉強せずに軽々しく発言している証拠だろう。なにより、今現在、日本には中国を刺激していいだけの外交の裾野はなく、アメリカでさえ「戦略的あいまいさ」を貫いているのだから、勇ましい事を言っていると、下手をすれば日本だけが中国に向けて突出しすぎて孤立する恐れすらある。難しい道ではあるが、中国とうまくやりつつ、実力を養い、いろいろな手段で外交の裾野を広げていくのが今の日本の取るべき道である。そんなこともわからないほど不勉強な事だけは確からしい。

また、下記記事のコメントで安田峰俊氏が指摘しているように、「台湾有事」が本当に発生した場合、客観的に見てそれが日本にとっての「存立危機」になることは間違いないだろうが、それを口に出さず、とりあえず中国とうまくやるのも知恵である。

以下、安田氏のコメントを一部引用。全面的に同感である。

そもそも、経済が低調な最近の中国は、数年前までのように西側を相手にオラつく(戦狼外交)より、本音では一定の協調路線を望んでいるように見ます。先日のAPEC首脳会議で、習近平氏がトランプ氏や高市氏に笑顔を振りまいた姿も、その反映でしょう。

しかしながら、彼らはメンツとイデオロギーの国(党)です。核心的利益を損ない体面を損なうものごとに対しては、上記の事情はかなぐり捨ててでも怒らねば顔が立ちません。日本側から見ると、向こうが勝手に設定した条件について違約を怒りだすわけですから、実にめんどくさい人たちですが。

今回、台湾有事が日本の存立危機事態に含まれうるとした高市発言は、中国から見ればレッドライン超えでした。ゆえに彼らは強硬に反発しているのかと思います。

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もっとも中国の理不尽は前からで、日本にとって所与の環境です。問われるのは、面倒な隣人に対する高市氏の外交・安全保障センスです。

仮に台湾有事が起きれば、日本の存立危機自体となる。客観的にも誤りといえないかとは思います。しかし、言葉としては戦略的に曖昧さを残して、中国ともとりあえず安定的にやっていくのが知恵でしょう。

いま現在、日本は台湾について、先んじて中国を刺激してまで存立危機の定義を明言すべき状況にはありません。高市氏が「言わなくていいことを言った」とは指摘できると思います。

政治家は言葉で商売をする仕事。
そのことをもっと考えてほしいのだけどね。
愛国的な方々は中国の大阪総領事氏を猛批判しているようで、確かに中国の大阪総領事氏は暴言失言の常習者であり今回の発言も暴言だが、こんな状況では中国の大阪総領事氏を笑えない。

内政の問題にせよ、外交の問題にせよ、とにかく勉強不足で言葉が軽い!
もし、高市氏(とその閣僚たち)が、何の考えもなしで条件反射的に発言することを「毅然とした態度」と思っているのであれば、いっそ「臆病な態度」でいてもらった方がマシである。
繰り返しになるが、SNS的な「言った者勝ち」が通用するのはSNSの狭い高市ファンの中だけである。
このような言葉の軽さでは、いずれ内政でも外交でも、「言葉」の上だけではない「現実」からの手痛いしっぺ返しを食らうことになるだろう。