東方録夢――第二回 情報カード
大学院の修士課程にいた頃、私は毎日のように史料と向き合っていた。
情報カードに史料の内容を「史料別」や「項目別」に分けて書き出し、コピーした史料の必要な部分を切り貼りして整理し、並べ替える。最後にはワープロに入力してまとめていく。そんな作業を積み重ねながら、ゼミ発表に備え、修士論文を書き上げる日々だった。
当時はまだパソコンすら持っていなかったのだから、今思えばずいぶんアナログな作業である。
調べものをするとき、今でもときどき情報カードを使うことがある。
とはいえ、現代はパソコンに直接入力でき、史料の多くがデジタル化され、ネット上で手軽に読める。本当に便利な時代になったと感じる。
写真は、大学院時代に書きためていた情報カードだ。ついさっき、部屋の片隅から発掘したばかりである。
デジタルネイティブ世代には、少し古く見える方法かもしれない。しかし、史料を「自分の目で見て、手で書く」ことには、デジタルだけでは得られない深い学びがある。史料の読み方や文章の区切り方、内容のつかみ方が、手を動かすことでより鮮明に見えてくるのだ。
今でも史料を精読するときは、パソコンの画面だけで済ませず、いったんプリントアウトして手作業でチェックする。画面上だけだと、どうしても目が滑り、見落としや読み間違いが増えてしまうからだ。
この習慣は、私の本業である翻訳の仕事でも同じで、翻訳文のチェックの際には必ず紙に印刷し、赤ペンを入れながら確認している。
画面だけで読むのではなく、自分の目と手をしっかり使って向き合う――。そのひと手間こそが、正確に読み、深く理解するための大切なプロセスなのだと思う。
