満洲語のテキストと辞典類

はじめに

満洲語(満洲語で「manju gisun マンジュ・ギスン」)とは、清朝の支配民族であった満洲人(マンジュ人 manju)の言語であり、満洲文字は満洲語を書き表すためにモンゴル文字を改良して作った文字です。

満洲語と満洲文字をこれから学ぼうという方のために書いてみました。
お読みいただければ幸いです。

なお、ここで取り上げる満洲語は主に満洲語の文語です。

 

一、満洲語についての概説

まずはこのウェブサイトを読むのが良いでしょう。

古代文字資料館 Ancient Writing Library(以下、本稿で引用するウェブサイト・ページは全て2026年2月7日閲覧)
https://kodaimoji.chowder.jp/

満洲文字を知る
https://kodaimoji.chowder.jp/library/manju/manju1.html

満洲語・満洲文字の概説として非常に役立ちます。

紙では以下の文献があります。

池上二良「トゥングース語」、市川三喜・服部四郎編『世界言語概説』下巻、研究社、1955年(2000年再刊)。
池上二良「ツングース諸語」、『言語学大辞典』世界言語編第2巻、三省堂、1989年。
津曲敏郎「満州語」、『言語学大辞典』世界言語編第4巻、三省堂、1992年。

また、あとで取り上げる満洲語学習テキストにある満洲語に関する概説も役立ちます。

河内良弘 著、淸瀨義三郎則府・愛新覚羅烏拉熙春 助編『満洲語文語文典』京都大学学術出版会、1996年
河内良弘・淸瀨義三郎則府 編著『満洲語文語入門』京都大学学術出版会、2002年
津曲敏郎『満洲語入門20講』大学書林、2002年

 

二、満洲語学習テキスト

満洲文字のローマ字転写法であるメーレンドルフ式ローマ字、満洲語文法体系の概説、および簡単な読み物、練習問題などを網羅した文法書としては、さきほども取り上げた以下の3つがおすすめです。

  1. 河内良弘 著、淸瀨義三郎則府・愛新覚羅烏拉熙春 助編『満洲語文語文典』京都大学学術出版会、1996年
  2. 河内良弘・淸瀨義三郎則府 編著『満洲語文語入門』京都大学学術出版会、2002年
  3. 津曲敏郎『満洲語入門20講』、大学書林、2002年

河内良弘 著、淸瀨義三郎則府・愛新覚羅烏拉熙春 助編『満洲語文語文典』京都大学学術出版会、2002年、扉ページ
河内良弘 著、淸瀨義三郎則府・愛新覚羅烏拉熙春 助編『満洲語文語文典』京都大学学術出版会、1996年、p.102-p.103、赤字で書き込みがされている。

河内良弘・淸瀨義三郎則府 編著『満洲語文語入門』京都大学学術出版会、2002年河内良弘・淸瀨義三郎則府 編著『満洲語文語入門』京都大学学術出版会、2002年、p.213、助詞・接尾辞等索引
津曲敏郎『満洲語入門20講』大学書林、2002年津曲敏郎『満洲語入門20講』大学書林、2002年、補講 主要参考文献

1は満洲語の総合的な文典です。範囲が広く、かつ整理されています。このテキストはボロボロになるまで使い倒しています。2は1の簡略版です。
1と2では巻末に満洲語小辞典と「助詞・接尾辞等索引」があります。特に「助詞・接尾辞等索引」が詳細で、満洲語史料の読解に非常に役立ちます。
史料読解のために満洲語を学び、使う方にはこちらの方が役に立つでしょう。

3は2よりもさらにコンパクトな満洲語テキストで、和訳問題や練習問題が豊富です。なんと著者宛の現代の満洲語書簡文も収録されています。
また、満洲語の現状、位置、他のツングース諸語との関係などに関する記述も豊富ですし、参考文献リストはかなりの充実ぶりです。
言語として満洲語を学び、研究していく人にとって非常に役立つ内容です。
「助詞・接尾辞索引」もありますが、こちらは基本的なものしか収録されていません。

 

三、辞典

テキストで満洲文字のローマ字転写法と基本的文法を習得したら、辞典を引きながら満洲語の文献を読み解きましょう。

まず第一に、現在、入手または利用、アクセスしやすい紙版の満洲語・日本語辞書・辞典は以下のとおりです。

  1. 羽田亨 編『満和辞典』京都帝国大学満蒙調査会、1937年(復刻:国書刊行会、1972年)(国立国会図書館デジタルコレクション:https://dl.ndl.go.jp/pid/1816744
  2. 福田昆之 編『満洲語文語辞典』FLL、1987年
  3. 福田昆之 編『補訂 満洲語文語辞典』FLL、2008年
  4. 河内良弘 編著、本田道夫 技術協力『満洲語辞典』松香堂書店、2014年
  5. 河内良弘 編著、本田道夫 技術協力『満洲語辞典 改訂増補版』松香堂書店、2018年
  6. 河内良弘 編著、本田道夫 技術協力『満洲語辞典 漢語語彙索引』松香堂書店、2021年
  7. 河内良弘 編著、本田道夫 技術協力『満洲語辞典 日本語語彙索引』松香堂書店、2021年

羽田亨 編『満和辞典』国書刊行会、1972年福田昆之 編『補訂 満洲語文語辞典』FLL、2008年
河内良弘 編著、本田道夫 技術協力『満洲語辞典 改訂増補版』松香堂書店、2018年、同『満洲語辞典 漢語語彙索引』松香堂書店、2021年、同『満洲語辞典 日本語語彙索引』松香堂書店、2021年河内良弘 編著、本田道夫 技術協力『満洲語辞典 改訂増補版』松香堂書店、2018年、辞書の冒頭「A」の内容

1の『満和辞典』は簡潔明瞭な内容で長らく愛用され、戦後にも国書刊行会で復刻版が出ています。初学者にも使いやすいです。
本辞典は、清代の満洲語・漢語辞書『御製増訂清文鑑』をベースにしており、『御製増訂清文鑑』の索引としても使えます。
国立国会図書館デジタルコレクションでは戦前版と戦後の復刻版いずれも閲覧・全文検索可能です。ただ、やはり手元にあった方が便利ではあるので、古本屋で見つけたらぜひ買っておきましょう。

2と3は戯曲や小説(『金瓶梅』・『聊斎志異』など)の満洲語訳から採られた用例が多いのが特徴です。

4の『満洲語辞典』は清代の膨大な文献から語彙と用例を採取しており、満洲語・日本語辞書の中では現在のところ最も語彙が多い辞書です。
5はその改訂増補版で、文献の収録範囲が広がり、語彙が増やされているので、利用するならこちらの方がいいでしょう。
6と7は『満洲語辞典』を漢語(中国語)と日本語から引けるようにした索引です。

さて、2~7はいずれも優れた辞典ですが、かなりの分量があり、値段もかなり高く、初学者にはハードルが高すぎるかもしれません。
最初は図書館で利用するのがいいでしょう。

 

第二に、満洲語・漢語辞書・辞典を紹介します。

代表的なものは以下のとおりです。

  1. 安双成 主編『満漢大辞典』遼寧民族出版社、1993年
  2. 安双成 主編『満漢大辞典 修訂本』遼寧民族出版社、2018年
  3. 胡増益 主編『新満漢大辞典』新疆人民出版社、1994年
  4. 劉厚生・関克笑・沈微・牛建強 編『簡明満漢辞典』河南大学出版社、1988年

安双成 主編『満漢大辞典』遼寧民族出版社、1993年劉厚生・関克笑・沈微・牛建強 編『簡明満漢辞典』河南大学出版社、1988年

1は収録語彙数がとにかく多いです。用例の出典記載がないのが玉に瑕。語彙語彙配列が満洲文字の伝統的配列法である「十二字頭」順に配列されており、初学者は少し面食らうかも(巻末にローマ字順の索引もあります)。
2は1の改訂版です。こちらは未見です。
3は収録語彙が多く、用例の出典も記載されています。ローマ字転写法が独特ですが、慣れれば大丈夫です。
4はコンパクトな満洲語・漢語辞典です。用例の出典記載もなく、語彙数も少ないですが、清朝の史料・公文書(檔案)に頻出する重要語彙が多く収録されていますので史料読解には非常に便利です。私も院生時代に愛用していました。使い勝手はいいです。

 

第三に、ウェブ上の満洲語辞書・辞典を紹介します。

東北大学東北アジア研究センターが運営しているサイトです。
広範な辞書・辞典・史料から語彙・用例を収録しており、特に史料読解に役立ちます。

東北大学東北アジア研究センター

満洲語辞典 『満漢大辞典』、『新満漢大辞典』、『満漢和』(『五体清文鑑』および『五体清文鑑訳解』(京都大学文学部内陸アジア研究所))

http://hkuri.cneas.tohoku.ac.jp/project1/manchu/list?groupId=11

満洲語辞書検索:『五体清文鑑』、『満蒙文鑑』、『大清全書』、『三合切音清文鑑』、『増訂清文鑑』

http://hkuri.cneas.tohoku.ac.jp/project1/kdic/list?groupId=18

満洲語資料検索:『清文啓蒙』、『尼山薩満』、『満洲実録』、『清語老乞大』、『一百条』

http://hkuri.cneas.tohoku.ac.jp/project1/ftsdata/list?groupId=19

四、文献

満洲語の読解はとにかく「習うより慣れろ」です。
テキストと辞書を使い倒して、たくさん読んでいきましょう。

幸い、先学たちによってローマ字化・和訳された満洲語史料も多いのでどんどん利用しましょう。
使わなければ損です。

初学者でも利用しやすいものとしては以下のとおりです。

今西春秋訳『満和蒙和対訳満洲実録』刀水書房、1992年

満文老檔研究会訳『満文老檔』I~VII、財団法人東洋文庫、1955-63年

満文講読会 訳『内国史院檔 順治元年 Ⅰ・Ⅱ合冊本(附:順治満文実録・元年十月)』2023年(東京外国語大学学術コレクションから無償ダウンロード可能 https://tufs.repo.nii.ac.jp/records/53618

本ブログでも満洲語史料について解説を加えたり、ローマ字化・和訳しています。拙い内容ではありますがご参考までに。

火薬の密売について――『年羹堯奏摺』より 

子母砲についての満文奏摺――『年羹堯奏摺』より

シュルガチ(舒尓哈齊)墓満漢合璧碑文

マンゴーとマンボー 台湾と清朝の満洲(マンジュ)人官僚

マンゴーとマンボー 台湾と清朝の満洲(マンジュ)人官僚 その2 マンゴーと台湾原住民についての上奏文の和訳

マンゴーとマンボー 台湾と清朝の満洲(マンジュ)人官僚 その3 マンゴーと武夷山の茶葉についての上奏文の和訳

台湾の台北故宮博物院のサイトでは満洲語檔案(公文書)を無料で閲覧・ダウンロードできるので、それを利用して練習するのもいいでしょう。

国立故宮博物院清代檔案検索系統

https://qingarchives.npm.edu.tw/index.php

また、日本、そして世界各地の図書館にも満洲語文献が収蔵されており、デジタル化されています。
それらは本ブログの「清朝史・満洲語関連リンク集」の「清朝史文献史料」にも掲載しています。

清朝史・満洲語関連リンク集

 

五、満洲語を習うには

現在、日本の大学では残念ながら満洲語を専門として設置している大学はありませんが、東洋史(特に清朝史)や言語学の講義の一部として満洲語の授業が開講されています。
東洋史専攻・言語学専攻を設置している大学の講義を検索するなどして探してください。

私の場合は、院生の頃に満洲語を学ぼうと思いましたが、自分がいる大学には当時満洲語の講義がなかったので、他大学の講義を探しました。
そして、とある大学で満洲語の講義が設置されているのを見つけて、飛び込みでその講義に出て、先生に直接頼み込んでモグリで講義に参加させていただきました。
まあ、この方法はあまり推奨できないので、他の方法を探してください。

 

おわりに

以上、浅学菲才、無芸大食の身ではありますが、満洲語のテキストと辞典類を紹介させていただきました。
清朝史と満洲語の広大な世界に足を踏み入れる方が一人でも増えれば本望です。

 

参考文献・ウェブサイト

参考文献

河内良弘 著、淸瀨義三郎則府・愛新覚羅烏拉熙春 助編『満洲語文語文典』京都大学学術出版会、1996年
河内良弘・清瀬義三郎則府 編著『満洲語文語入門』京都大学学術出版会、2002年
津曲敏郎『満洲語入門20講』、大学書林、2002年
石橋崇雄『中国で近年刊行された満洲語に関する辞典類』『東洋学報』巻 78、1 号、 p. 63-71

https://toyo-bunko.repo.nii.ac.jp/records/5825(2026年2月7日閲覧)

ウェブサイト

「満洲文字を知る」 古代文字資料館 Ancient Writing Library(2026年2月7日閲覧)

https://kodaimoji.chowder.jp/library/manju/manju1.html

東北大学東北アジア研究センター

https://www.cneas.tohoku.ac.jp/