松沢裕作『歴史学はこう考える』

松沢裕作『歴史学はこう考える』(ちくま新書1815、筑摩書房、2024年)


歴史学の考え方をわかりやすく語る。

そもそも「史料」とは何かから始めて、史料批判とは何か、史料の記述から何が言えるか、ランケに始まる近代歴史学とマルクス主義的な歴史研究、時代区分の問題などなど歴史学の重要なトピックに言及。
いずれも具体的に、わかりやすく、ていねいに説明されていて非常に参考になった。
また、本書の第三章から第五章では政治史・経済史・社会史の論文を実際に取り上げ、論文というものが一体どのようにして組み立てられているのかを具体的に解き明かしていく。

歴史学入門や史学概論はともすれば抽象的で雲をつかむような話になりがちだが、本書ではそういうことがなかった。

本書で印象的だったのは、歴史家と読者の思想や立場の違いにかかわらず、史料に基づきその史料の述べていることを読み取ろうという努力を怠っていない限りは、その論文は読むに値するという著者の語りかけ。
この部分を引用すると以下の通り(ここのところは案外忘れられがちなんだよねえ……)。

それでも、歴史家の書くものなんてしょせん歴史家の思想によって切り取られたもので、読むに値しないなどと考えてしまう必要はありません。もし、その歴史家が、史料にもとづき、それなりにその史料の述べていることを読み取ろうという努力を怠っていない限りは(本書の第三章から第五章でみた論文はいずれもこうした努力の結果として生まれたものです)。
あなたがどのような思想をいだいているにしても、ある論文が、マルクス主義者の書いたものだから、天皇制擁護論者の書いたものだから、フェミニストの書いたものだから等々、その他その歴史家が何か「偏った」考え方をしているから、その論文はそれだけで読むに値しないものである、などということはないのです。(同書第6章、p.205(Kindle版))

これから歴史を研究しようとする人にとって良い入門書であり、歴史書・歴史論文の読者にとっても基本に立ち返らせてくれる本だと思う。

(本記事は「読書メーター」に投稿し、さらに「2024年9月23日 月曜日 晴れ 読書など」の中に書いたものですが、書評記事として独立させ、加筆訂正しました)