小野寺拓也・田野大輔『検証 ナチスは「良いこと」もしたのか?』
小野寺拓也・田野大輔『検証 ナチスは「良いこと」もしたのか?』(岩波ブックレット、岩波書店、2022年)
ナチスの経済政策(経済回復)、労働政策、家族・子育て支援、環境保護政策、健康政策などナチスがした「良いこと」とされがちな政策について検証し、次のようにわかりやすく解説している。
第一にナチスのオリジナルといえる政策はなく、それらはナチスにより「功績」として誇大に宣伝されたものであること。
第二にそれらは戦争のための「民族共同体」構築という目的によるものであり、またそれはユダヤ人、政治的敵対者、障害者や「反社会的分子」の排除と表裏一体であったこと。
第三に「良いこと」とされている政策も結局約束倒れであったり、部分的な成果は挙がったものの問題点も多く、ナチスが喧伝するような大きな成果は上がっていないこと。
ナチスの政策を一覧する概説書としてよくまとまっている。
「はじめに」と「おわりに」では歴史に向き合う姿勢について我々がしばしば陥りがちな誤りについて指摘している。
個人的に特に印象に残ったのは次の箇所。
善悪を持ち込まず、どのような時代にも適用できる無色透明な尺度によって、あたかも「神」の視点から超越的に叙述することが歴史学の使命だと誤解している向きは多い。端的に言ってそれは間違いだし、そもそも不可能である。(本書p5)
いや、ほんとそういう人って多い。特にSNSにおいて非常に目立つ。
そしてまたそういう人ほど、「歴史に善悪を持ち込むな」、「尺度(価値観)は時代によって変わる」という言葉を振り回し、自分が「中立」で「相対的」な立場に立っていると思い込み、自分が行っている過去への「切り取り」の気ままさへの自覚的なチェックを怠っているように思える。
いろいろな意味で大いに啓発され、かつ考えさせられる本だった。
『読書メーター』にもレビューを投稿した。
この記事はもともと「2023年9月3日 日曜日 晴れ 読書など」 https://talkiyanhoninjai.net/archives/12150 の一部でしたが、検索しやすさを考えて独立させました(2025年9月1日)。