歴史群像シリーズ『大清帝国――“東洋の獅子”の栄光と落日』
『大清帝国――”東洋の獅子”の栄光と落日』新・歴史群像シリーズ15、学習研究社、2008年7月
待望の清朝史の歴史群像シリーズ。
王朝の創始から康熙、雍正、乾隆の繁栄を経て、清末の衰亡へと至る歴史の概説、皇帝とそれを取り巻く様々な人物たちの評伝、清朝の統治術、八旗制度についての説明など、清朝史の話題が盛りだくさん。
歴史群像シリーズの特徴である写真やイラストも豊富に盛り込まれ、紫禁城や八旗兵の再現イラスト、江戸時代の日本で描かれた『唐土名所図会』、そして清末の古写真をふんだんに引用することで、これまで文章から想像するしかなかった清朝という時代をビジュアルで理解できるようになっている。
特に八旗制度については多くのページを割き、最新の研究成果を盛り込みつつ、図やイラストを交えてわかりやすく解説している。八旗制度は単純なように見えて、実はかなり複雑な制度だが、図やイラストを見れば一目瞭然に理解できる。一般書で八旗制度についてここまで詳しい解説は初めて見た。感動した!
清朝の統治術については、満洲族がトップに立つという原則は守りつつ、内陸アジア世界の「ハーン」、東アジア世界・儒教文化圏の「皇帝」などいろいろな顔を使い分けたことや、各民族や各地区の状況に応じた、かつ硬軟をうまく取り混ぜた巧みな統治ぶりをわかりやすく解説。また、モンゴル帝国に類似した内陸アジア的な側近政治の構造にも触れている。
ただ、その背景にある思想面については紙幅の関係上深く掘り下げられていないし、清朝の統治階層である満洲族以外の諸民族、特に「藩部」の回部(ウイグルなど中央アジア諸民族)、チベットの動向についてももう少し補足が欲しかったが、これらの問題については、岡田英弘・神田信夫・松村潤『紫禁城の栄光』(講談社文庫、講談社、2006年)、石橋崇雄『大清帝国への道』(講談社学術文庫、講談社、2011年)、石濱裕美子『チベット仏教世界の歴史的研究』(東方書店、2001年)などを併せ読めばより理解が深まるだろう。
欠点としては、本書の内容が政治史・軍事史主体で、文化史や社会経済史についてはあまり詳しく取り上げられていないこと。ただ、これは歴史群像シリーズの特徴から言えば仕方のないところか。
うちの本棚にて(2008年、大連にて)