松下憲一『中華とは何か――遊牧民からみた古代中国史』(ちくま新書 1856、筑摩書房、2025年)
松下憲一『中華とは何か――遊牧民からみた古代中国史』(ちくま新書 1856、筑摩書房、2025年)
遊牧の始まり、東ユーラシアと中国における新石器時代から唐代までを遊牧民視点から見つめた古代中国史。
本書の特徴は、「中華」の概念・カテゴリーについて、歴史上「中華」と対峙し、時に「中華」を支配した遊牧民たちの視点から再解釈を試みている点である。
まず、第一章から引用。
「中華思想には、中華と夷狄を区別する排他的な側面と、徳を持つ者が中華であり、夷狄もその徳に感化されて中華になるという融合的な側面がある。中華世界を支配する資格は、有徳者であることで、天から任命される。よって民族や出自は関係ない。このことが異民族支配者にとっては好都合だった。異民族の支配者は、この中華思想を利用し、中華文明を保護することで、みずからの中国支配を正当化した。そのために王朝交替や異民族支配がおきても中華文明は途絶えることはなかった。」
この点はまことにその通り。
「中華」と異民族との関係について考える上で第一に押さえておくべき要点である。
本書を通読してわかるのは「中国」、「中華」、「中華思想」さらには「漢人」、「漢族」の概念・カテゴリーが、周辺の文化や諸集団を取り込む中で常に変化してきたという点である。
また、これまでにような遊牧民が一方的に「漢化」していくと捉える見方に対し、本書はより双方向的な文化的交流と交渉の過程を示している。
全体として、既存研究の成果を的確に取り込みながら、要点を押さえた手堅い概説だと思う。