軍人そして歴史家として――マルク・ブロック(著)、平野千果子 (訳)『奇妙な敗北――1940年の証言』
マルク・ブロック(著)、平野千果子 (訳)『奇妙な敗北――1940年の証言』岩波書店、2007年2月
50代という高齢を押して参謀将校として従軍した歴史家マルク・ブロックが、一軍人としての視点と歴史家としての視点の双方から1940年のフランスの敗因を分析している。
第一章は対独戦でのブロックの従軍記で、第二章では軍事的角度からの敗因分析、第三章では政治・社会的角度からの敗因分析が行われている。
第一章では、対独戦でのマルク・ブロック自身の従軍歴が記される。ここでは一軍人・一兵士としての視点からフランスの敗北が語られている。
悲惨なダンケルクの撤退を経験した後にまたフランスに戻るなど、危険と波乱に満ちた行程をたどっていることがわかり、一読して大いに驚いた。
第二章では、軍事的角度からの敗因分析で、第一章に比べ巨視的・俯瞰的な視点から語られている。これは参謀将校としての視点なのだろう。
軍人マルク・ブロックは、仏独両軍の機動力の差とそれによる仏軍の混乱、怠惰な官僚主義、情報共有のなさ、縄張り主義、士気の崩壊などを辛辣な筆致で指摘する。
「ドイツ軍は速さを掲げて、今日の戦争をした。私たちはといえば、昨日の戦争、あるいは一昨日の戦争さえ試みなかった。(中略)その結果、現実に、それぞれ人類の異なる時代に属していた二つの敵が、私たちの戦場でぶつかったのであった。要するに私たちは、長い投げ槍で銃に対抗するという、植民地拡張の歴史にはなじみのある戦闘を再現したにすぎない。そして今回、未開人の役を演じたのは私たちだった。」p.82
「戦争の最初から最後まで各参謀部のメトロノームは、あまりに遅い調子で打ち続けたのである。」p.90
そして第二章後半、第三章では、歴史家マルク・ブロックが敗因を考察していく。
「歴史学は未来を洞察しようとするものだし、私はそれが不可能だとは考えていない。とはいえ歴史学のもたらす教訓は、過去は繰り返され、昨日あったことが明日もそうだということではない。歴史学は昨日がいかに、そしてなぜ一昨日とは異なっているのかを検証し、その比較において、今度は明日がどのような意味において昨日と異なるのかを予見する手段を見出そうとしているのだ。」p.174-175
ブロックは敗戦という悲劇的な状況にあってもなお歴史家としての本領を失わなかったことを思わせる言葉だ。
今読んでも興味深い指摘が多い。
一軍人が記した時代のありさまを示す史料として、歴史家としての思想書として、読むに値する本だと思う。
(本書評は「読書メーター」に掲載した内容に修正・加筆を行ったものです)