中華時代劇『天下長河 The Long River』のことなど

最近、中国の時代劇『天下長河  天下长河 The Long River』を見始めたところ。
邦題は『康熙帝~大河を統べる王』らしい。黄河の治水のドラマ。
治水で活躍した漢軍旗人の靳輔(きんほ Jin4 Fu3 満洲語表記は gin fu(1))が主役らしい。

YouTubeで視聴可能。

まだ第1話と第2話しか見ていないが、興味を持った点を少し書く。

オープニングは黄河の流れと治水を表現したアニメーション。
ちゃんと清代前半、靳輔の生きた康熙年間の黄河の流路になっているのが芸が細かい。
当時の黄河は現在とは異なり南流し、江蘇省から黄海に注いでいる。
黄河の流路は歴史上何度も変わっている。

第1話、第2話での黄河の洪水被害の描写は凄惨の一言。
康熙帝と重臣たちの腹の探り合い、掛け合いもドラマとして面白く、この辺は中国宮廷ドラマの定番か。

第2話では、靳輔が洪水で流されて一時行方不明に。
靳輔を捜す息子が「阿瑪 アマ」と叫んでいる描写が興味深い。
「アマ ama」とは満洲語で「父」を意味する言葉。
靳輔は早くから清朝に仕えた漢軍旗人であり、満洲旗人と生活を共にしてきた。その息子が満洲語を使うのはドラマの描写としてはありえなくはないかなと思った。

あと、戸部尚書のイサンガ(isangga (2) 伊桑阿)もなかなか面白い描写をされている。
ネット情報によると今後主人公のライバル、敵役を演じるらしい。
第2話では鋭い計算能力、キレッキレの頭脳を見せ、職務を放り出し、洪水被害の拡大を招いた汚職官僚をうまくやりこめている。
史実でもイサンガは内政で活躍した能臣で、修士課程時代に康熙年間の歴史を調べていた自分にとってはおなじみの人物。

史実にどこまで沿っているかは別にして、イサンガをドラマで大きく取り上げてくれるのは嬉しいw
古い友人にひさしぶりに会った気分。
これをきっかけにイサンガがメジャーになってくれたらと思う。

(1) 満洲語表記は満文『八旗通志』巻一百七十三参照

jakūn gūsai tung jy  i sucungga weilehe bithei  emu tanggū nadanju ilaci debtelin,gebungge amban liyei juwan,gosin llaci,kubuhe suwayan i ujen coohai gūsai jalan sirara amban,jai,gin fu

(満文『八旗通志初集』 巻一百七十三 名臣列伝三十三 鑲黄旗漢軍世職大臣二 靳輔)(ベルリン州立図書館本)
https://digital.staatsbibliothek-berlin.de/werkansicht?PPN=PPN3371387046&PHYSID=PHYS_0557&DMDID=DMDLOG_0001

(2) 満洲語表記は満文『八旗通志』巻一百八十五参照

jakūn gūsai tung jy  i sucungga weilehe bithei  emu jakūnju sunjaci debtelin,gebungge amban liyei juwan,dehi sunjaci,,gulu suwayan i manju gūsai amcame gebu buhe amban,isangga

(満文『八旗通志初集』巻一百八十五 名臣列伝四十五 正黄旗満洲得諡大臣 イサンガ(伊桑阿))(ベルリン州立図書館本)

https://digital.staatsbibliothek-berlin.de/werkansicht?PPN=PPN3371387054&PHYSID=PHYS_0813&DMDID=DMDLOG_0001

 

参考文献

〔清〕鄂爾泰等修、李洵・趙徳貴主点校『八旗通志』東北師範大学出版社、1985年