土肥恒之『日本の西洋史学――先駆者たちの肖像』

土肥恒之『日本の西洋史学――先駆者たちの肖像』(講談社学術文庫、講談社、2023年)

なかなか濃い内容でしたし、西洋史の用語を知らないので、読むのに時間がかかりました。『読書メーター』にも感想を投稿しました。

以下感想。

お雇い外国人ルードヴィヒ・リースによるランケ史学の移植から1945年の敗戦までの日本の西洋史学の展開を先駆者たちの群像を通じて描く。
ランケ史学から日欧交渉史、社会経済史への潮流、マルクスとウェーバーの受容、戦争との関わりなど興味深い点が多い。
多くの学者たちの人間的な実像も紹介されている。
特に上原専禄による世界史像の提唱を掘り下げていて面白かった。

日本の西洋史学者たちの西洋史との格闘からは、日本と日本人が西洋という存在ひいては外国という存在といかに対峙してきたか、いかに理解しようとしたかが見えてくる。
日本の近代化の「モデルとしての西洋」と「外圧としての西洋」に対峙し、「モデルとしての西洋」からの翻案から脱し、日本の西洋史学としての学問としての自立を果たしたが、その一方では戦争との関わりでは「外圧としての西洋」への対抗から時局に迎合した議論も見られた。
戦後は上原専禄による西洋中心的な歴史観に対する新たな世界史像の提唱が行われた。特に、13世紀のモンゴル帝国による征服「東から西への動き」、もう一つは「十字軍戦争」というイスラーム教徒に対する十字軍「西から東への動き」により「世界の一体化」が始まったのを「世界史の起点」とする見方は、近年の日本のモンゴル史学者にも似ていて興味深い。

私は東洋史専攻なので、日本における西洋史学の歴史については、大学学部時代の史学概論で少し教わった程度だった。なので本書の内容は非常に興味深かった。
そして日本の西洋史学も東洋史学と意外と共通する過程を歩んできたことがわかり、面白かった。
こうした歴史は、日本人が西洋史ひいては外国史を学び、研究する意味、ひいては日本と日本人が西洋という存在ひいては外国という存在といかに対峙してきたか、いかに理解しようとしたかを考える手がかりになるかもしれないと思った。